IMRADと三角ロジック
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/17 06:31 UTC 版)
「IMRAD」の記事における「IMRADと三角ロジック」の解説
さて、本題である論文と三角ロジックの関係に戻ろう。論文の骨格は、「現状(背景)を分析し、問題点を抽出し、解決策を提示する」という[現状→課題→解決]型のストーリである。これに応じ、「背景の分析から問題点の抽出」に関する論理と、「問題抽出から問題解決」に至る論理があり、言い換えれば前者は「自分の論文が論じようとしている問題の価値」(研究の意義)を示す論理であり、後者は「自分のやった調査、研究、考究」の正しさ(研究の正しさ)を示す論理である。この意味で「論文には2つの大きな隠れたメッセージが書かれている」とも言える。1つ目は、「自分の研究の価値があること」、もう1つは「自分の研究結果は正しいものである」ということである。例えば以下のようにより細かく考えてみることもできる。 1.この研究は重要である 2.この研究には新知見がある 3.この主張は正しい 4.このデータは信頼できる 研究の意義(より正確には研究目的の意義)の説明は、通常は「過去の研究成果の流れを解説の後、その上で、何が明らかになっておらず、何が明らかになればどのような貢献が見出せるか」を説明する形で行われることが多い。 実際、田地野彰によると、論文の背景をムーブ分析といわれる手法で分析すると、典型的には以下の3つのムーブから構成されている場合が多いとされる。 第一のムーブ (Move 1) は、当該論文が扱うテーマの重要性、あるいは一般的に認知されている事実の描写を扱う。 第二のムーブ (Move 2) は、先行研究がこれまでに扱わなかった領域(当該論文が埋める隙間)を述べる箇所である。 第三のムーブ (Move 3) は、当該論文の内容紹介を行う箇所である。ここには研究方法の紹介、研究結果のまとめ、論文の構成についての描写が含まれる。 これを三角ロジックの構造に当てはめると 「自分の研究は価値がある」という主張(明確な文章としては書かれない) → 記載なし 「先行研究の流れ」(証拠物件) → 第一のムーブ 「何が明らかになっておらず、何が明らかになればどのような貢献が見出せるかに関する分析」(推論過程) → 第二のムーブ となる。通常は、この論証はIntroductionの項目内で完結する。なお、第三のムーブに関しては、「研究の重要性の論証後」の話なので、上記の三角ロジックからは、若干はずれる。 自分の研究結果は正しいものであることを示すためには、通常は2段階の論理を踏む。1つ目は、「データが適切な手法で測定され、適切な手法で処理されたものであること(cf.科学的方法)」に関する論証。もう1つ目は、「自ら取得したデータと、引用したデータ、理論が正しいと仮定すれば、それから導き出した自分の結論(論文全体の主張)は正しい」(これが論文の骨格となる論理である)ということについての論証である。「データが適切な手法で測定され、適切な手法で処理されたものであること」に関する論証は、通常は、Methodの中で完結し、 「得られたデータは信頼に値する」という主張(明確な文章としては書かれないことが多い) 「測定方法」、「統計処理の方法」「実験回数」(証拠物件) 正しい手法で充分な回数測定したのを妥当な方法で処理したのだから正しいという暗黙の了解(論拠; 文章としては明記されない) からなる構造を持っている。測定方法の妥当性、統計手法の妥当性が、論文の論旨に照らし重要である場合には、Discussionパートで別途、詳細な議論を行う場合もある。 次に、「結論の正しさ」についてだが、「結論」として提示される「論文全体の主張」は、通常Conclusion、Abstract、Discussionの少なくとも1つの中に記載されている。その根拠となる事実はResultの中に書かれている。論拠は、Discussionの中に書かれている。「論文全体の主張」については、必ずしも1つとは限らず、いくつかの論点に関する考察が並立して列挙されている場合もあるが、その場合にも、その根拠となる事実はResultの中に書かれている。論拠は、Discussionの中に書かれている(このような場合にはResultとDiscussionが結合されている場合もある)。
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