DNA修復の異常に関わる遺伝的疾患
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/29 13:52 UTC 版)
「DNA修復」の記事における「DNA修復の異常に関わる遺伝的疾患」の解説
DNA修復機構に関与する遺伝子の欠陥は、いくつかの重篤な遺伝病の原因となる。例えば、ヌクレオチド除去修復(NER)の機能不全が原因の遺伝的疾患として、次のようなものがある。 色素性乾皮症(XP) GGR(global genome repair:ゲノム全体の修復)におけるNERの機能不全による。紫外線への感受性を高め、日光過敏症、皮膚やその他臓器における高発がんやシミそばかすの増加をもたらす。XPAからXPGまでの7つの相補群からなり、それぞれが異なる酵素を欠損していることが原因である。また、DSC(DeSanctis-Cacchoine syndrome)と合併し、知能低下や運動失調を来している患者も多く見られる。A〜G群の他、バリアント群XPVも存在するが、これはNERではなくTLSの不全が原因である。 コケイン症候群 (Cockayne syndrome, CS) TC-NER(転写に共役したヌクレオチド除去修復)の機能不全が原因であり、CSA、CSBの2つの相補群からなる。紫外線および化学薬品への過敏化、知能や身体の発育不全、早老症などを呈する。XP-B, D, Gと合併する場合もある。 硫黄欠乏性毛髪発育異常症(TTD, trichothiodystrophy) コケイン症候群(CS)と近い臨床症状を示すが、CSでは認められない皮膚角化の亢進、髪や爪の脆化が認められる。XPB, XPD, TTDAに変異が入り、GG-NERおよびTC-NERの活性が低下していることが原因である。 頭蓋顔骨格症候群(COFSS, cerebro-oculo-facio-skeletal syndrome) コケイン症候群(CS)の重症型であり、知能・身体にCSよりも重度の発育不全を示し、神経細胞の急激な細胞死により、生後1〜2年で死亡する。 遺伝性非ポリポーシス大腸癌 (hereditary non-polyposis colorectal cancer, HNPCC) DNAミスマッチ修復遺伝子の異常により、DNA複製エラーが蓄積し、種々の悪性腫瘍を発症する。 また、NER以外のDNA修復機構の異常に起因する遺伝的疾患としては、 ウェルナー症候群 (Werner's syndrome) 早期老化、成長遅延および発癌率の上昇を特徴とする遺伝的疾患であり、10代に入るまでは正常に発育するが、それ以降の成長が遅延し、その後白髪化や脱毛をはじめとする皮膚症状や、白内障、骨粗鬆症などさまざまな臨床症状を呈し、40代に入ってから発がんや心筋梗塞などを来す。 ブルーム症候群 (Bloom's syndrome) 日光過敏症、悪性腫瘍の発生率上昇。 毛細血管拡張性運動失調症(Ataxia-Telangiectasia, A-T, also known as Louis-Bar症候群) 小脳失調、毛細血管拡張、免疫不全を主な特徴とし、患者由来の細胞は電離放射線やある種の化学物質など種々のDNA障害因子に高い感受性を示す。また、発癌率、特に白血病、脳腫瘍および胃癌の発生率が増加する。チェックポイント機構上流のATMが当疾患の責任分子である。 他のDNA修復機能の減退に伴う病気として、ファンコーニ貧血 (Fanconi's anemia)、遺伝的な乳癌および直腸癌などが知られている。DNAクロスリンク修復に関わるFA経路上の酵素(FANCD2など)の異常がファンコニ貧血の原因であり、BRCAの異常が高頻度に乳癌をもたらすことがわかっている。
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