鳥獣花木図屏風の真贋
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/13 02:51 UTC 版)
プライスコレクションの「鳥獣花木図屏風」は、若冲の代表作としてメディアなどで紹介されることが多い作品である。しかし、佐藤康宏は、一貫して若冲自身の関与を否定した見解を述べている。佐藤は、プライス本と他の升目描作品を比べると、動植物が若冲らしからぬぶよぶよとした締りのない曲線で描かれ、形態も単純化し緊張感に欠けている事を指摘する。彩色も「樹花鳥獣図」より丁寧であるが桝目内部の彩色に一貫性がなく、グラデーションを用いず桝目に沿って塗り分けされるといった単純な手法で「白象群獣図」の彩色論理を全く無視した悪い意味での図案化・装飾化が見られる。こうした論拠から若冲自身の関与は考えられず、「若冲の形態と彩色法から離れて違う方向へ暴走した、質的に劣る作品」で、幕末頃に作られた作者不明の模倣作(若冲の落款や印章はないので贋作ではない)としている。 これに対し辻惟雄は、ぶよぶよとした線はプライス本よりむしろ、静岡県立美術館の「樹花鳥獣図屏風」に当てはまると反論し、「白象群獣図」の桝目描きの方法が異なるのは、作品が淡彩から濃彩へ切り替える際に起こる必然的変化だと指摘する。佐藤が欠点とみなすデザイン化・意匠化は、むしろ若冲が意図するところで、画面全体の色彩の置き方も適切である。画中のロバやオランウータン、ヤマアラシも、若冲と同時代に、かつ観ることが出来る範囲で紹介されており、しかもその図様はプライス本と非常に類似している。これらの点からプライス本は、静岡県立美術館の「樹花鳥獣図屏風」と同じ画題形式が意匠として進化を遂げた、現存作品の中で最も「若冲デザイン」が完成した作品であり、若冲70代後半頃の制作だと反論している。 佐藤は辻の意見に再び反論する。佐藤はまず、美術史家たちに若冲の真価をいち早く認めたジョー・プライスの鑑識眼に一目置かざるを得ず、将来自分が作品借用に関わることが想定される場合、所有者の不興を買うのは避けたい心理があるのを指摘する。描線も、右隻5扇目の駱駝とオランウータンの輪郭線は相当にひどく、辻がかろうじて佐藤の指摘を認める右隻2扇目の唐獅子も、プライス本の方が寸詰まりで、静岡県美本にある脚や肉球、爪の塗り分けもプライス本はやっていない。また、プライス本にしか描かれないヤマアラシ、ロバ、オランウータン、カバ、アシカ、駱駝、水牛、火喰い鳥などは静岡県や若冲の他の作品に見出だせず、若冲とプライス本との距離を物語っていると言える。辻が援用する内山論文も、プライス本の位置づけに大きな寄与を成すものの、プライス本を若冲作だと全く疑っておらず、プライス本が若冲在世時の作品とする十分な根拠になっているとは言い難い。更にプライス本は、静岡県美本と比較して多くの写し崩れが指摘されている。こうした論拠から、「プライス本は静岡県美本のようなタイプの屏風をもとにして、珍しい鳥獣を増やし、動植物を若冲のように描けない代わりに桝目作りに凝り、<地>の桝目と<図>の絵画とが逆転した屏風」だと結論づけている。
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