鮮烈な登場
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 22:44 UTC 版)
当時ハメ手だった早石田を改良したもので、その登場は将棋界に大きな衝撃を与えた。ハメ手として軽んじられていた戦法を1971年4月の第30期名人戦七番勝負第2局の大舞台で使うというだけでも衝撃的であったが、振り飛車であるにもかかわらず角道を止めず、当時はタブーとされていた角交換を行ってしまうという驚くべき手法であったからである。そして升田はこの戦法を用いて常勝不敗の大山康晴名人(当時)に勝利。駒組みの分かりやすさもあってアマチュアで大流行し、当時は縁台将棋では先手後手ともに升田式石田流となる相升田式という珍将棋まで登場した。 名人戦第2局は升田先手番で、初手から▲7六歩△3四歩▲7五歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲4八玉と進むと、実戦は以下▲7六飛と石田流に進めた先手が作戦勝ちとなり、押しきる。続く第3局、初手からの進行は▲7六歩△3四歩▲2六歩△3五歩▲2五歩△3二飛と、後手でも石田流を目指した。その次の局(第30期名人戦七番勝負第3局)で後手番の升田幸三が使ったことによって先手のみの定跡だった早石田が後手でも使えることが判明した。この第30期名人戦はフルセットの末、大山康晴が防衛したが、その7局のうち5局が升田式石田流であった。初手から▲7六歩△3四歩に▲7五歩がその出だし。△8四歩▲7八飛△8五歩に飛車先を放置して▲4八玉と上がる。ここから早石田が升田式となるのであるが、あとは玉を美濃に囲っていく。後手が途中△8六歩▲同歩△同飛とくれば、▲2二角成△同銀▲7七角、もしくは▲8八飛で対応可能である。 升田式石田流の基本となる駒組みとして、▲7八金とこちらに金を使うのは下町流三間飛車同様、角の打ち込みを消している意味である。次に▲7七桂と跳ねて△4四歩なら▲8五桂を狙う攻めがある(△同飛は▲9六角)。ただし、▲7七桂と跳ねると▲8八銀を使いにくいのがネックである。これは後述のとおり▲7七銀も有力であって、こちらの手の狙いは△4四歩には▲6六銀~5五銀と中央に繰り出す手、または▲8六歩△同歩▲同飛と強く飛車交換を目指す攻めが考えられる。いずれも軽快に動いていくのが狙い。▲7七桂型は後述のとおり▲9六角が狙いの一手で、△9四角と飛車先の歩を守る手を指しても▲8五桂△同角▲8六飛で、今度は角取りが受からない。したがって名人戦第2局では▲9六角に後手は△5四角とし、以下▲4六飛△7四歩と進んだ。升田はのちに「昔から後手番の石田流は悪いとされてきたが、本当にそうなのかどうか、疑念をいだいていた。それに、悪いといわれるとやってみたくなるのが私の性分である。もちろん悪いから指すのではない、自分で納得することが前提なのである」と著書で書いている。 早石田に対して後手居飛車側が図3で△8六歩▲同歩△同飛は▲7四歩があり、以下△7四同歩は▲2二角成△同銀▲9五角の王手飛車、△6二銀も▲2二角成△同銀▲7七角の両取りがある。7四歩を手抜いて△8七飛成は▲7三歩成△同桂▲2二角成△同銀▲7三飛成(▲5五角は△3三角)△8九竜▲9八角で居飛車が特段有利な展開にはならない。そこで△8六歩を保留し△6二銀とすると、上記図2-Dのときと同じように▲7四歩△同歩▲2二角成△同銀▲5五角△7三銀▲7四飛△6四角▲7三飛成△5五角▲8二龍▲同角と進めると今度は▲8四飛がある。先手の玉が4八に移動しているので△9五角の切り替えしが利かなくなっている。以下△7二金に▲7三歩△同桂▲8三銀が生じている。したがって、△6二銀▲7四歩に△7二金▲7三歩成△同銀と応じる必要がある。局面的には先手が▲7八飛と▲4八玉の二手しか指していないことになるが、居飛車側は六手指している勘定になる。このほか、△8六歩▲同歩△同飛▲7四歩に△8七飛成もあり、以下▲7三歩成は△6七龍▲6八金△7八龍▲同金△8八角成▲同銀△7三桂とし、▲5五角であると△7五飛▲7七角に△6五桂が利く他、▲7四歩も△7五飛の返しがある。 △持駒 なし 9 8 7 6 5 4 3 2 1 香 桂 金 金 銀 桂 香 一 飛 銀 王 角 二 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 三 歩 四 歩 歩 五 飛 六 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 七 角 玉 八 香 桂 銀 金 金 銀 桂 香 九 ▲持駒 なし図3-B 基本形 △持駒 角 9 8 7 6 5 4 3 2 1 香 桂 金 金 銀 桂 香 一 飛 王 二 歩 歩 銀 歩 歩 歩 歩 三 歩 歩 四 歩 歩 五 飛 六 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 七 銀 金 銀 玉 八 香 桂 金 桂 香 九 ▲持駒 角図3-C 基本形 △持駒 角 9 8 7 6 5 4 3 2 1 香 桂 金 桂 香 一 飛 金 王 銀 二 歩 歩 銀 歩 歩 歩 歩 三 歩 歩 四 歩 歩 五 角 飛 六 歩 歩 桂 歩 歩 歩 歩 歩 歩 七 銀 金 銀 玉 八 香 金 桂 香 九 ▲持駒 なし図3-D ▲7七桂型の例 図3-B は図3から少し進み、先手が飛車を▲7六飛と浮いたところ。ここでは▲7四歩△7二金から▲7三歩成△同銀もしくは▲7五飛(後述)の展開もあるが、飛車を浮いた升田式の狙いは、ここから次に飛車を3六に展開して後手3四の歩をかすめ取ってしまおうというもの。このため、ここから後手居飛車側は△8八角成とし、△4二銀または△2二銀から△3三銀を用意して飛車の展開に備えることとなる。 石田流側は以下▲同銀から図3-C のような構えを見せる。図以下、先手は▲7七銀型や、▲7七桂型があり、いずれも一局。▲7七銀型は8筋から逆襲を狙っていく積極的な指し方や、▲6六銀〜▲5五銀や▲6六銀〜▲5六歩〜▲5五歩などの指し方がある。▲7七桂型の指し方もいくつかあり、▲5七銀型、▲6七銀型のバランスを重視した布陣にて、持久戦にする方法もある。この場合、左銀は8八〜7九〜6八のルートで中央に移動させていく。その他には図3-Dのように▲9六に角を添えてから▲8五角から▲8六飛からの飛車交換をみせて主導権を握る指し方がある。
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