錫釉の特性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/07 15:55 UTC 版)
錫釉に含まれるスズの粉末は酸化スズ(IV)(二酸化スズ: SnO2)、またはスズ酸が商業的に利用されている。錫釉が作り出す不透明さは入射光を反射するときにその光を散乱させるような物質を添加することで生まれる。 錫釉の不透明さは釉薬中に含まれる粒子の性質によって決まり、入射する光が釉薬中の粒子によってセラミックの素地に光が届かずに吸収され、産卵するため錫釉の不透明性が生まれる。結果として、釉薬中に含まれる光の吸収性や散乱性を有する粒子の濃度によって不透明性の性質が決まり得る。これは一般的に、釉薬の基になる母岩とその他の粒子間で生じる屈折率の相違が錫釉の不透明性を際立たせている。同様に、釉薬中の粒径が光の波長(可視光: 100-1000 nm)に近く、釉薬が不規則な表面であるほど、不透明性を向上させる。 二酸化スズは焼成後の釉薬に存在したガラス質の基質が懸濁液中に留まって、その基質が十分に高い屈折率を生み出し光を散乱させるので、釉薬の不透明度(英語版)を引き立たせている。焼成時の温度を上昇させると溶解度が高まり、不透明度が減少する。釉薬中の酸化スズの溶解度は他の成分によっても決まるが概ね低い溶質となっている。酸化スズの溶解度はNa2O、K2O、B2O3によって上昇し、CaO、BaO、ZnO、Al2O3、そして微量のPbOによって減少する。 中世で用いられていた錫釉の研究によると錫石に含まれる酸化スズの粒径は数百ナノメートルであり、この粒径では可視光の波長域を放射することが判明している。また酸化スズは微小な結晶だけでなく粒子が凝集体として存在する場合がある。酸化スズは高屈折率であり、釉薬への溶解度が低く、粒径が大きいことから非常に優れた乳化剤といえる。 酸化スズが使用され始めた頃は、主に陶磁器の素地と釉薬の間に存在するスリップ(英語版)層で使用されていた。これは電子顕微鏡を用いて初期のイスラムの陶磁器の顔料の画像から、酸化スズの粒子が境界面に濃縮していて、他の乳化剤と同様にウラストナイト、ダイオプサイド、気泡が存在することが判明している。後の時代で使用されていた錫釉の微量分析では酸化スズが素地の表面だけでなくむしろ釉薬一帯に分布していることから、酸化スズが単なる表面の塗工層として存在するのではなく、乳化剤として作用していることが示された。 初期のラスター彩陶器における錫と鉛の含有量は質量当たりの濃度がそれぞれ 6-8 wt% ほどであったが、11世紀頃のラスター彩陶器ではより鮮やかな色彩を表現するために鉛の含有量を 25-35 wt% に増大させ、当時の錫の濃度が 5-12 wt% 程と比べて鉛をより高含量に含有させるようになった。 一般的に鉛は酸化スズと共に釉薬に含有している。鉛と酸化スズの反応は酸化スズが再結晶するので、結果としてスズ不透明ガラス (tin-opacified glass) よりスズ不透明釉薬 (tin-opacified glazes) の不透明度が高くなる。また初期の錫釉ではPbO/SnO2比の高いものが多く発見されている。焼成過程において、酸化鉛は石英と約550℃で反応を起こしてPbSiO3を形成し、続いて600℃の高温度で酸化スズと反応を起こして酸化鉛スズ (PbSnO3) を生成する。酸化鉛スズの形成後、700℃~750℃の温度でPbSiO3、PbO、PbSnO3の融解が起こり、結果としてPbSnO3がSnO2に溶解する。SnO2が結晶化する温度は溶液の温度の上昇に伴って上昇する。加熱と冷却を経て、溶解中のスズが枯渇するまで再結晶が行われる。二度目の焼成で、鉛は酸化鉛を形成せずにケイ酸鉛を形成する反応が促進されるので、再結晶化された錫石 (SnO2) が釉薬中に溶解や沈殿する。核生成と沈殿物の結晶成長の割合は反応時の温度と時間によって決まる。発達した錫石の粒径は温度に応じて反応前の結晶より小さくなる。錫不透明釉の不透明さを高めるためには再結晶化された SnO2 の粒径を小さくすることでより満たせる。不透明さを増大することに加えて、酸化スズ中の酸化鉛の比が高くなると釉薬の融点が下がり、製造時における焼成温度の減少が引き起こされる。
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