避難を妨げる心理要因
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 02:23 UTC 版)
東日本大震災の死者・行方不明者は1万8千人に上り、その9割は津波によるものである。多くの死者が出た原因として、従来の科学的想定を超える「想定外」の規模だっただけではなく、三陸が津波の常襲地帯であるにも関わらず多くの人が避難しなかったことが挙げられる。ただし、その理由は、必ずしも災害に対する意識が低かったのではなく、以下に挙げるような人間誰しもが持つ様々な心理的要因が作用したと考えられる。 津波警報の空振り経験を重ねることによる「オオカミ少年効果」 - 速報性を重視する津波警報の仕組み上、予報区を細かく分けることができない。実際の津波の高さは地形の影響で地点によりまちまちだが、津波警報では数地点のうち最も高い値をその予報区の津波の高さとして扱うため、警報が発表されても多くの地域では警報より小さい津波が観測される「空振り」となる。住民は、空振りの経験を重ねるごとに「逃げなくても大丈夫だろう」「この前も大丈夫だった」という警報を軽視する心理が強まり、避難をしなくなっていく。 正常性バイアス - 災害に直面したとき、「(自分に限って)被災するはずないだろう」というように、避難しなければいけない状況にあることや被災するしれない可能性から目をそむけてしまうこと。無意識のうちに不都合な情報を無視してしまう、人間が持つ心理特性。 認知的不協和 - 避難すべきだと認識はしていても、正常性バイアスにより実際には避難していない状況下で、「この前の津波警報の時も津波は来なかった」「隣の人もまだ避難していない」というように、避難していない自分を正当化しようとすること。不安を解消しようとする、人間が持つ心理特性。 防災における住民の主体性の低下 - 法令等により国や自治体には災害から国民や財産を守る責務が規定されてはいるものの、避難すべき状況下では根本的に、自分の命は自分で守らなければいけない。「避難勧告が出なかったから避難しなかった」「津波警報が出たから避難したが、空振りだった。避難して損した」というような考え方はいわば受け身の姿勢であり、自らの命を守ることに関して行政に依存し主体性を欠いているといえる。空振りに対して「避難して損した」ではなく「避難したけど何事もなくてよかった」と捉え、警報時に毎回避難することを継続していくことが、本当に津波が来たときに功を奏することになる。 ハード対策の逆効果 - ダム・堤防や防潮堤などの施設(ハード)対策を強化することは、一定レベル以下の災害では効果を発揮する一方、「防潮堤があるから大丈夫だ、津波は来ない」という過信をも生み、それを超過するレベルの災害では逆効果にもなる。 また、避難については以下のような傾向が見られる。 高齢者は避難を拒む傾向がある。 深夜の災害は、状況把握、情報伝達、避難のいずれも困難で、他の時間帯に比べて被害が大きくなる。 災害の際には、家族が一体になろうとする避難行動をとる傾向がある。 隣人や近しい人の避難行動は影響力が大きく、避難を躊躇しているときには特に強く作用する。 災害経験が良く伝承され、自然に根差しその土地の性質に通じており、自ら守る意識が強く、地域の結びつきが強い山あいの集落では避難が行われやすい。対する都市部では、これらがいずれも弱く、避難が行われにくい。 責任と実行力・決断力のあるリーダーが存在すると、大量避難が成功しやすい。
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