西川の大踊り
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西川の盆踊り・大踊り開催日 8月15日 場 所 吉野郡十津川村大字重里旧西川第一小学校校庭(雨天時は同校体育館) 十津川村の南西部、十津川支流の西川筋の集落群を総称して西川地区という。西川の盆踊りは、8月15日に西川地区全体の催しとして重里の旧西川第一小学校の校庭で踊られている。以前は集落ごとに踊られていたが大正の頃より同川筋の永井の集落に集まり踊られるようになり、1967年(昭和42年)に永井、重里を中心に玉垣内、西中、小山手の人たちも加わり西川大踊保存会が結成され、以来毎年西川中学校(中学校は統合され、その場所が西川第一小学校になっていた)の校庭で踊られるようになった。永井では元は川原で、さらに1889年(明治22年)の十津川大水害で流される以前は道場と呼ぶ集会所で踊っていた。集落によっては民家の畳をあげて踊ることもあったという。 西川の踊りの特色は櫓を設けないこと、と多くの文献にあるように元々櫓はなかったが、2004年(平成16年)より櫓を設置している。ただし、並列の隊列で踊る演目が多く、また隊列を維持したまま移動する形式の演目もあるため、櫓は中央ではなく校舎に近い校庭の隅に設置して提灯を張り巡らせている。音頭取りは櫓上で歌うが、昔は歌える人が踊りながら音頭をとっていたという。 西川では馬鹿踊りを踊った後、大踊りの前に餅つき踊りも踊られる。餅臼を囲み伊勢音頭や餅つき唄を囃しに餅つきのしぐさを交えて踊られる。餅つき踊りの後には餅まきも行われいよいよ大踊りである。西川にはヨリコ・イリハ・カケイリの3曲の大踊りが伝わり踊られている。 ヨリコ(寄子)は踊りの場に人を寄せるための踊りといい、男性は白い短い房の付いたバチを持つ太鼓打ちと太鼓持ちに分かれ、後方に両手に扇を持つ女性が踊る。男女が3、4列に並び全体が移動するダイナミックな動きを見せる踊りである。歌詞はいくつかあるがその都度一つのものを歌い、歌い方、踊り方が三段階に変わる。昔は雨乞いにも踊られたといい「雨はしゅげしゅげ」の歌詞は雨乞いのときのもので、その他の歌詞はそのときの音頭とりがその場で適当に選んで歌う。ヨリコは小山手で盛んに踊られていたので小山手踊りともいわれた。 イリハは、女性は両手に扇を持ち、男性は胸に太鼓を吊り下げ、紅白の長い房の付いたバチを美しく振り太鼓を打ちつつ踊る優雅な踊りである。加賀越前から舟が来て黄金や宝を積んでくるという内容で始まり、江戸へ行く道中の道順などを織り交ぜて唄う。昔は村の他の地区でもイリハが踊られていたが今では西川のものだけが残っている。 カケイリは大踊りの最後に踊られるもので、ヨリコと同じ形態の踊りであるが切子灯籠を吊り下げた灯籠持ちが加わる。カケイリではセメのあと最後に横列の隊形を解いて円形となる。輪の中心で音頭とりが即興の歌を歌い、ゆったりと踊って最後を締めくくる。これを「ダイモチを引く」という。 西川の大踊りには他に忍び踊り・鎌倉踊り・お花踊りもある。もとはヨリコ形式の踊りのみを大踊りといい、これらの踊りはイリハとともに小踊りと呼ばれ、また継承に熱心であった永井を中心によく踊られたので永井踊りともいった。今では殆ど踊られなくなったが胸に太鼓を吊り下げた男性を中心に踊るもののようで、太鼓踊り系統の曲が盆踊りに取り入れられたものであろうと考えられ、これら小踊りは十津川の大踊りにおいては他の大踊りとは別の芸態である。西川の大踊りで現行で「イリハ」と呼んでいる踊りは実際には2曲の踊りが入っている。最初に独立した「いりは」を踊り、続けて別曲の「おえど」踊りを加えて踊っている。「いりは(入波)」は篠原踊(五條市大塔町)のほか、国栖(くず・吉野町)や東川(うのがわ・川上村)の太鼓踊りでも最初の場入りに用いられる曲である。現行の西川の「イリハ」も、いりはから他の踊りに続く様式であることから本来は小踊りの最初の踊りであったと考えられる。 西川で小踊りといわれたイリハ系の踊りは、以前は十津川村の各地でも本踊りといわれて踊られていた。1954年(昭和29年)に出版された『十津川郷』(西田正俊著)には三村区内(小原、武蔵などの地区)の「本踊りの歌」として「いりは」など7つの歌があげられているが、積極的な伝承がなかったために消滅し、小原、武蔵などに今の大踊りだけがようやく残った。本踊りが西川地区だけに完全に残るのは、明治の廃仏後も松井正則、松井混吉、玉置朝孝らが踊りの継承に努め、その情熱が松井義太郎や玉置道雄、東勇らに受け継がれ、他地区に先駆けて保存会を結成したことによるもので、西川大踊保存会の存在意義は大きい。
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