裁判手続等のIT化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/08 06:32 UTC 版)
従来の訴訟はじめとする裁判手続は、一部の例外を除き、対面かつ紙を前提とするものであった。しかし、裁判手続をデジタル化していく国際的潮流のほか、新型コロナウイルス感染症流行に伴って新たな社会経済様式が求められる中、日本の裁判所も、IT技術を取り込んだ抜本的な改革を迫られている。 政府は、2018年6月の閣議決定で、裁判手続等のIT化を積極的に推し進めていく方針を打ち出し、さらに従来型の裁判手続の感染症流行に対する脆さが露呈した後の2020年7月の閣議決定(成長戦略フォローアップ)では、今後のスケジュールを具体化した。その内容は、①法改正を経ることなく可能なウェブ会議による争点整理手続(2020年2月に、知財高裁ほか、東京地裁など一部の地方裁判所で開始)について、順次運用を拡大していくこと(フェーズ1)、②2022年の民事訴訟法改正を経て、現行法下では認められていない口頭弁論期日などでのウェブ会議利用も開始し(フェーズ2)、③更に、2025年には、書面等電子提出の本格的な利用を可能とする(一部からの運用開始も検討)(フェーズ3)などというものである。 また、同閣議決定では、今後、家事、刑事など他の裁判手続のIT化についても、具体的な検討を開始するとされたほか、法令とセットとなって具体的なルール形成の役割を担うとされる民事判決のオープン化・ビッグデータ化についても、積極的な検討を求めている(これに呼応するように、日弁連法務研究財団では、これを行っていくための枠組み・ワークフロー作りや、プライバシー等保護の観点で必要とされる仮名処理でのAI活用などの研究・検討に着手している)。 このような裁判手続等のIT化は、裁判所へのアクセス拡充、訴訟に関する手間・時間・コストの削減、適正・妥当・迅速な紛争解決(判決データなどの利活用による裁判所内・外での紛争解決への寄与を含む。)などといった効果、更に感染症拡大防止策となることも期待されている。 菅政権下でのデジタル庁発足に向けた動きなど、国全体で、府省間さらには官・民の垣根にもとらわれない形でのデジタル化推進が加速している一方、システム開発は全てを1度に実施しようとするのではなく、機能・地域などを絞って始めた上、試行と軌道修正を積み重ね、品質を高めてから拡大していくとの方法をとるのが一般で、最初から満点を目指すべきではないとされる不確実性の高いプロジェクトである。そのため、裁判手続等のIT化も、計画どおりに進んでいくかは不透明な面がある。 なお、小笠原村役場では、東京都墨田区に所在する東京簡易裁判所及び千代田区に所在する東京家庭裁判所とビデオ会議システムで接続することで、島内にいながら、民事調停及び家事調停・審判手続の利用を可能としており、自治体(行政)と裁判所(司法)が、IT技術を活用して連携することで、住民サービスとして裁判所へのアクセスを確保・向上させた例といえる(→ワン・ストップ・サービス)。
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