薬品備蓄と医療体制
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/04 03:04 UTC 版)
2008年初頭現在、アメリカ合衆国では2,700万人分のフランスサノフィパスツール社が開発したプレパンデミック・ワクチンを用意しているが、さらにアジュバントと呼ばれるグラクソ・スミスクライン社とノバルティス社が開発した物質によって必要な抗原量を12分の1程度まで減らせられる可能性がある。 2006年5月にインドネシアで大流行直前まで事態が進展した時点では、スイスのバーゼルにあるロシュ社本社と米国ニュージャージー州のWHO倉庫にはWHOが保管するタミフルがそれぞれ150万人分、計300万人分が全世界に向けた分として確保されていた。これは、パンデミックの発生初期に短期間・集中的に大量供給する事で感染を一地域に閉じ込めるため用意されている分である。 日本では2008年3月現在、2,000万人x2回分のプレパンデミック・ワクチンが原液の状態で準備されている。2008年内に感染症指定の医療関係者など5,561人にこのワクチンが投与され、内8人が何らかの異常によって入院した。2009年度からは安全性が確認されればという条件付ながら、パンデミック発生と同時に医療関係者や公務員、交通関係者などのライフライン従事者を中心に1,000万人に接種されることが決定されている。また、これ以降の将来に全国民に対する接種の必要性が検討されている。この決定以前は、国内でのヒト-ヒト感染が確認されてから初めて接種準備を始めることとなっていたので、原液の製剤化、1人2回の接種と免疫獲得までの2.5か月を考えれば、国際的にもかなり進んだ対策となっている。ただ、実際の大流行発生時には、発熱している患者を診察・収容する医療機関側の準備が実訓練ではほとんど行なわれておらず、医療関係者も感染を防ぐ対策が自分自身で確実と実感出来なければ参集しないのではないかという懸念がある。国や地方自治体のレベルでもパンデミックに対する対応準備は徐々に進められている。米国での一般住民を巻き込んだ大規模な予行演習レベルと日本の現状ではまだ差があり、薬以外の準備は「構想」だけかごく小規模に行なわれた「予行演習」に留まっている。 米国では、少なくともプレワクチン接種は広い駐車場に特設されたドライブスルーによって、接種者同士や医療関係者の感染リスクを最小にしながら10分以内ですべて終えて出てゆけるまでに準備が行なわれている。カリフォルニア州では学校に対する、感染の広がり、学校閉鎖の決定と伝達の手順や、生徒の退去手順、再開の手順などが含まれる7時間の研修コースが行なわれており、WebとDVDでもガイドが提供されている。CDCは最大12週間は生徒を学校に集めないように警告している。また、本格的な大流行によって、救命すべき患者が医療機関の能力を越えた時のことを考慮して、2005年11月に公表された米政府の「高齢者優先救命」方針に対して、全米の一般国民の、特に高齢者を中心とする多数からの「そう遠くない将来自然に老いて死ぬ我々より、むしろ未来のある幼年者・若年者を助けろ」という意見によって2007年10月に方針が180度変更された例など、全米規模でパンデミックに対する理解と準備が進んでいる。 日米とおそらくその他の国でも、人工呼吸器が不足する事が現時点で明らかになっているが、数百万人や数千万人単位で発生する患者分の何割分かの台数の人工呼吸器を用意することは限られた医療予算では賄えないために、新規購入を増やす努力は行なわれていても、依然として不足することは今から明らかである。仮に、人数分が製造・購入できても、それを操作する医療従事者がいないという別の制約もある。
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