菅政権による引渡し
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/18 16:11 UTC 版)
「朝鮮半島から流出した文化財の返還問題」の記事における「菅政権による引渡し」の解説
2010年8月10日に菅直人首相による談話の内容が閣議決定され、そこに「『朝鮮王朝儀軌』等の朝鮮半島由来の貴重な図書について、韓国の人々の期待に応えて近くこれらをお渡ししたいと思います」とする一文が盛り込まれ、朝鮮総督府経由で宮内庁にもたらされた書物が引き渡されることになった。松本剛明外務大臣(当時)は「(日韓)両国の国民の気持ち、感情が一層良くなる」と述べ、仙谷由人内閣官房副長官(当時)は談話は「日韓関係を本当の意味で未来志向で豊かなものにしていく」ものだと主張した。菅直人は「法律的問題はすでに解決されたという観点で(返還ではなく)引き渡しだという表現を使った」と強調したが、韓国側は『返還』だと公式発表するなど無意味だった。 「引渡し」か「返還」かについて日韓では認識が違っており、日本政府は公式には、日韓併合は韓国併合ニ関スル条約によって合法的に行われ、これらの図書は合法的に日本へ寄贈されたものであるため「返却」ではなく「お渡し・引渡し・寄贈」と位置づけているが、談話において「(韓国は)その意に反して行われた植民地支配によって、国と文化を奪われ」と明言して、事実上の「返還」を談話で決定した。これに対して、韓国政府や韓国マスコミは以前から日韓併合自体が違法で無効であると主張しているため「返却・返還・還収」という言葉に強くこだわっており、韓国政府は外交文書において一方的に「お渡し」を「返還」に書き換えいたが、日本政府はその事実を確認後も韓国政府に抗議しなかった。 他方、韓国で保管される日本由来の文化財には対馬宗家文書などもあり、一方的に日本が韓国に引き渡すのではなく、相互の文化協力という趣旨から韓国にも引渡を要求すべきと国会で主張されたが、松本剛明外務大臣(当時)はそれらは同列に論じられるべきものではないし、「互いに過去のものの引渡しを求めていけば収拾がつかなくなるおそれがある」として韓国には引渡しを求めないと答え、また日本国内での仏像盗難事件については日韓図書協定とは無関係であると答えた。 韓国政府は菅談話の早期の履行を求めていたが、11月14日に日韓図書協定が署名され、引き渡し対象書物は協定の「附属書」の記載に従い合計150部1205冊とされた。日韓図書協定は2011年6月10日に発効。2011年12月6日に引渡しが完了した。 引渡されたなかには宮内庁書陵部が1917年に古物商から正式に購入した儀軌も4点含まれていた。 産経新聞は、日本政府は返還文化財を公式的には「略奪文化財」に位置づけていないが、談話で「文化を奪われ」と言及していることから、間接的に「略奪文化財」を認めたことになり、今後「略奪文化財の返還」という構図が「既成事実化」する可能性があり、河野談話と同じ構図で「禍根」を残したと批判した。ジャーナリストの安積明子も、戦後一貫して返還義務がないとしてきた日本政府の立場が菅談話によって崩れたと主張した。
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