草への進化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/25 04:09 UTC 版)
陸上植物の進化を考えた場合、最初に陸上に進出したものは、草本の形であったと見るのが当然であり、そこから次第に丈夫な茎を持つ木本の形が進化したと考えられる。現生のシダ植物は大部分が草本型であるが、化石種では大木になるものも多くあった。これは、幹の構造の発達が不十分であるため後発の高等植物との競争に敗れ、小さいリソースで生活できる草本型のみが生き残った、あるいは草本に変化したと考えられよう。ちなみに裸子植物はすべて木本である。被子植物は木本と草本が入り交じるが、一般に、草本は木本から進化してきたと考えられる。単子葉植物はほとんどが草である。したがって、現在の主な草本は木本に進化したものから、改めて草本の形を取るように進化したものと見るべきである。 植物は光合成を行う。地上における光は太陽から来るので、光は常に上から来る。したがって、背が高いものは背が低いものより絶対的に有利である。にもかかわらず、草として生活する植物の種類は、樹木より多い。中生代では温暖な気候が数億年に渡って続き、木本植物の巨大化競争は絶頂期に達した。現生で最大の樹木であるセコイアを筆頭に裸子植物は大木になるものが多いが、これらは中生代に栄えた種の末裔である。裸子植物は受粉後も種子が成熟するまで数年を要するものが少なくなく、世代交代のサイクルは遅い。新生代に到ると断続的に氷河期が襲うようになり気候は寒冷化・不安定化する。これに伴って植物相も少ない生育リソースで子孫を残し、世代交代が速く変化に追随する能力が高い草本が優勢となった。 草本は背が高くなれないが、その代わりに生活の融通が利くのが利点である。植物体が小さい代わりに、生活時間が短く、一年草は1年以内に世代を終えることができる。それによって、攪乱を受け、開いた場があれば素早く侵入し、世代を繰り返す。一般に、植物群落の遷移では、まず草がはえて、それから木が侵入して森林へ、という順番が見られる。したがって、断続的に攪乱が行われる条件下では、草本が長期にわたって優占する、つまり草原の状態が長く続く場合もある。雑草もその一例であり、そのような環境には樹木は進入しがたい。 大きな樹木の生長した森林では、樹木の下の空間を利用する。あるいは着生植物として樹上に進出し、蔓植物として這い上がる。つまり、より小型の体を生かして、樹木の作る多様な足場を利用するようになっている。 また、樹木の成立しにくい環境にも草本は生活する。極端に乾燥が厳しく、雨の降る時期以外には生き延びるのが困難な場所でも、種子で休眠すればやり過ごせるし、条件の良い時期に一気に成長して種子をつけることができる。樹木では、1年で種子を作るというのはまずない。乾燥や寒さが厳しく、森林が成立する限界以上の所では、草原が成立することが多い。大陸中央の乾燥地帯などでは、イネ科を中心とする草原が広がる。また渓流周辺は時に増水して流されるため、樹木は育ちにくいが、渓流植物という一群の草本を中心とした植物がある。 生殖においては株別れや匍匐茎などによって無性生殖を行うものが多い。横に広がって数を増やすものは、野外では小さなコロニーを形成するものが多い。そのような場合、一つのコロニーは単一の種子に由来するクローンと見なせる。光合成で得た栄養から、どれだけの種子を作るか、あるいはどれだけを無性生殖に配分するか、といった問題は、植物の生活史戦略の研究課題である。
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