自動車のドラムブレーキ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/07/02 19:37 UTC 版)
ブレーキシューにはブレーキライニングが取り付けられている。ブレーキが掛かると、ブレーキシューが動いてドラムの内側にライニングを押し付ける。ドラムとライニングの間に働く摩擦力により制動力が得られ、エネルギーは熱となって捨てられる。 現代の自動車(乗用車と軽量な商用車)は、四輪ともにディスクブレーキを備えているか、あるいはフロントにディスクブレーキ、リアにドラムブレーキを備えている。ディスクブレーキとの比較においてドラムブレーキの主な短所は、熱を速く放散させることができず、過熱する恐れが大きいこと、冠水や泥による制動力喪失からの復帰が遅いこと、隙間管理が煩雑で、適正値を保っていないと片効きの懸念があること、ロック(滑走)に至るまでのコントロール性が劣り、素早い操作には慣れが必要なこと、設計にもよるが、部品点数やばね下重量の増加を招くことなどである。 それでもなおドラムブレーキが必要とされている理由は、ブレーキパッドを押し付けるだけのディスクブレーキに比べ、リーディング側で食い込む力(自己サーボ作用)が働くためにリーディング側とトレーリング側の組み合わせによって前方向にも後方向にも優れた拘束力が得られる点にある。このためパーキングブレーキと兼用される小型車の後輪や、車両総重量の大きな大型自動車の全輪でドラムブレーキが使われている。また、4輪ディスクブレーキの車両にもパーキングブレーキ専用のドラムが装備される場合があり、これらはドラム・イン・ディスクと呼ばれる。 オートバイでも1970年代まではフロントに2リーディング、リアにリーディングとトレーリングのドラムブレーキを採用する車種が多かった。レースではフロントに2リーディングを両面に装備する4リーディングにドラムの換気装置をつけたものもあったが、オートバイの動力性能が向上してくる中で、ドラムブレーキでは制動能力や耐フェード性、整備性に劣ることから、小排気量のものを除いてディスクブレーキへの移行が進んでいった。 しかし、現在でもレトロな雰囲気を楽しむタイプのオートバイなどでは前後ドラムブレーキを採用するものも多い。車種によっては前輪両面に2リーディングの合計4リーディングを実装していることもある。また一部のオフロードライダーは険しい山道で岩や倒木にローターやキャリパーが激突して破損したり、ブレーキホースが断裂するリスクを嫌い、敢えて前後ドラムブレーキの車種を好んで使用する者も存在する。これは、ワイヤー式のドラムブレーキは岩などに衝突した場合でもドラム本体が破損することは少なく、ブレーキアームが折損したりワイヤーが断裂してもワイヤーを強制的に緊縛することにより応急補修が可能である事がある。またディスクブレーキよりもブレーキの利きがマイルドで、ガレ場でのブレーキコントロールが行いやすく、長時間のブレーキングでもベーパーロック現象のリスクがなく、油圧系統のメンテナンスが不要でワイヤーの注油のみでほぼ日常メンテナンスが完了することなどが挙げられる。このような設計思想の元で製造された車両としてはヤマハ・TWの最初期型などが挙げられるが、現行型では走行安全上の理由からディスクブレーキに変更されている。 なお、オートバイの場合でも自動車の場合でも、1990年代以前の旧い車両のドラムブレーキをメンテナンスする場合には、ブレーキライニングにアスベストが使用されている可能性が高いため、シュー交換履歴が不明な車両のブレーキシュー交換の際にはブレーキダストを絶対に飛散させないように注意が必要である。
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