系統・写本
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 05:25 UTC 版)
曽我物語の諸本は多く現存し、写本は70本を超し版本は20種を超す。その内容は伝本ごとに異なる部分があって、物語のストーリーも伝本ごとの変化に富む。それが『曽我物語』の特徴でもある。 これらは「真名本」と「仮名本」の2系統に分類される。このうち真名本は仮名本より成立が早く古態を示すとされ、先学では鎌倉時代末期から南北朝時代に成立したとされる。 形式上は、「真名本」は漢字で書かれたもの、「仮名本」は仮名混じりで書かれたものである。「真名本」を読み下した「訓読本」(大石寺本)を区別して3系統とすることもある。「真名本」は全10巻で、「仮名本」も初期の系統は全10巻だが、江戸時代になると「仮名本」全12巻の印刷本(版本)が出回るようになり、これを「流布本」という。仮名本の10巻ものを「仮名第一次本」、12巻の印刷本を「仮名第二次本」ともいう。 内容面では、「真名本」は東国に関する地理や人物等の描写が精緻・正確で、各巻の冒頭部には副題として「本朝報恩合戦謝徳闘諍集」と記され報恩・因果応報の宗教的説話であることが強調されている。そしてその内容は仏教の唱導が色濃く反映されている。こうした点や、独特の表記スタイルが東国で編纂された書物と類似しているなどの特徴から、「真名本」は東国で仏教の影響を受けながら成立したと推定されている。 これに較べると「仮名本」は仏教的教導性が弱められるかわりに、古今の和漢の故事の引用が豊富である。そして、より劇的な脚色や創作的逸話が追加され、娯楽色が強い。反面、東国についての描写は不正確になっている。さまざまな特徴から、「仮名本」は京都で文化人や学僧などによって編み出されていったと推定されている。 大衆に広く支持されたのは娯楽性が豊かで劇的な場面に富む「仮名本」で、これが能や幸若舞、歌舞伎などの題材として普及した。 主な伝本 分類 伝本名 所在地 巻数 写本作成年代 真名本 妙本寺本 宮崎県日南市(伊東家)千葉県鋸南町(妙本寺) 全10巻 1546年(天文15年)頃 本門寺本 静岡県富士宮市(本門寺) 全10巻 1553年(天文23年) 大石寺本(訓読本) 静岡県富士宮市(大石寺) 全10巻 不明 小宮山本 静嘉堂文庫(小宮山氏) 1-9巻。10巻欠。 1740年(元文5年)以前 仮名本 太山寺本 兵庫県神戸市(太山寺) 全10巻 1539年(天文8年)以前 十行古活字本(流布本) 各地 全12巻 1596年(慶長元年)
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