発作の抑制
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ケトジェニック療法が身体に作用する際の機序について説明している仮説が数多く出ているが、検証されてはおらず、不明な点も多い。全身で起こっているケトアシドーシス、電解質の変化、低血糖症が挙げられるが、これらはいずれも反証されている。ケトン食を摂取しているヒトの脳内では数多くの生化学的な変化が起こっていることが確認されているが、いずれの作用が癲癇発作を抑制しているのかについてまでは分かっていない。抗てんかん薬が脳に及ぼす機序の解明についても類似している。 ケトジェニック療法では炭水化物の摂取を厳格に制限する代わりに脂肪の摂取は制限しないため、身体は脂肪酸を主要な燃料源として消費するようになる。脂肪酸は、細胞のミトコンドリア(Mitochondria)による酸化作用を通して消費される。これをβ酸化(Beta Oxidation)と呼ぶ。人体には糖新生(Gluconeogenesis)と呼ばれる経路があり、炭水化物や砂糖を食べずともブドウ糖を自ら生産する機能が備わっている。アミノ酸も糖新生の材料として使われるが、脂肪酸は材料にできない。 しかし、アミノ酸(Amino Acids)は体の成長と修復に必要な材料となるタンパク質を作る際に欠かせない材料であり、糖新生のためだけに消費されることはない。脂肪酸はそのままの形では血液脳関門(The Blood–Brain Barrier)を通過しない。肝臓は長鎖脂肪酸を材料に、β-ヒドロキシ酪酸(β-Hydroxybutyrate)、アセト酢酸(Acetoacetate)、アセトン(Acetone)、これらのケトン体を合成する。肝臓が合成したこれらのケトン体は脳内に入り、エネルギー源として消費される。ケトン体は抗癲癇薬と同様の作用をもたらす。動物実験においては、アセト酢酸とアセトンが発作を抑制したことが確認されている。ケトジェニック療法は、脳のエネルギー代謝を適応的に変化させ、エネルギーが途切れないよう促進する。ブドウ糖に比べると、ケトン体はエネルギーの浪費が起こりにくい燃料となり、ミトコンドリアの増加を促す。発作が起こっている最中にエネルギーの需要が増加することで、ニューロンが安定した状態を維持するのに役立ち、それに伴ってニューロンの神経保護作用(Neuroprotective Effect)をもたらす可能性がある。 ケトジェニック療法について、げっ歯動物(ネズミ目)14匹を用いた動物実験による研究が行われている。それらの動物実験でも、ケトジェニック療法がてんかんから脳を保護する作用が確認され、従来から使われてきた抗てんかん薬とはまた別の形で癲癇発作を抑制する作用があることが分かった。臨床の現場で抗てんかん薬としては用いられてはいない「フェノフィブラート」(Fenofibrate)と呼ばれる薬剤があるが、成体のラットに対して実験的に投与したところ、ケトン食に匹敵するほどのてんかん発作の抑制効果が見られた。薬剤を半ダース分投与しても発作の抑制が不可能であった患者に対する有効性を示す研究であるとして、ほかに類を見ない作用機序を示している。また、ラットにケトン食を取らせたところ、てんかん発作の抑制が確認された。 しかし、抗てんかん薬は癲癇発作を抑制する代わりに、発作を予防したり治療したりする効果はない。癲癇症状の発症の機序については、まだはっきりとは分かっていない部分も多い。バルプロ酸(Valproate)、レベチラセタム(Levetiracetam)、ベンゾジアゼピン(Benzodiazepine)といった化合物もあり、これらは動物実験にててんかん発作の抑制が確認された。 しかし、ヒトに対する臨床試験でてんかんの抑制に成功した抗てんかん薬は、いまだに出ていない。
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発作の抑制
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「ケトジェニック・ダイエット」の記事における「発作の抑制」の解説
ケトジェニック療法が身体に作用する際の機序について説明している仮説が数多く出ているが、検証されてはおらず、不明な点も多い。全身で起こっているケトアシドーシス、電解質の変化、低血糖症が挙げられるが、これらはいずれも反証されている。ケトン食を摂取しているヒトの脳内では数多くの生化学的な変化が起こっていることが確認されているが、いずれの作用が癲癇発作を抑制しているのかについてまでは分かっていない。抗癲癇薬が脳に及ぼす機序の解明についても類似している。 ケトジェニック療法では炭水化物の摂取を厳格に制限する代わりに脂肪の摂取は制限しないため、身体は脂肪酸を主要な燃料源として消費するようになる。脂肪酸は、細胞のミトコンドリア( Mitochondria )による酸化作用を通して消費される。これをβ酸化( Beta Oxidation )と呼ぶ。人体には糖新生( Gluconeogenesis )と呼ばれる経路があり、炭水化物や砂糖を食べずともブドウ糖を自ら生産する機能が備わっている。アミノ酸も糖新生の材料として使われるが、脂肪酸は材料にできない。 だが、アミノ酸( Amino Acids )は体の成長と修復に必要な材料となるタンパク質を作る際に欠かせない材料であり、糖新生のためだけに消費されることは無い。脂肪酸はそのままの形では血液脳関門( The Blood–Brain Barrier )を通過しない。肝臓は長鎖脂肪酸を材料に、β-ヒドロキシ酪酸( β-Hydroxybutyrate )、アセト酢酸( Acetoacetate )、アセトン( Acetone )、これらのケトン体を合成する。肝臓が合成したこれらのケトン体は脳内に入り、エネルギー源として消費される。ケトン体は抗癲癇薬と同様の作用をもたらす。動物実験においては、アセト酢酸とアセトンが発作を抑制したことが確認されている。ケトジェニック療法は、脳のエネルギー代謝を適応的に変化させ、エネルギーが途切れないよう促進する。ブドウ糖に比べると、ケトン体はエネルギーの浪費が起こりにくい燃料となり、ミトコンドリアの増加を促す。発作が起こっている最中にエネルギーの需要が増加することで、ニューロンが安定した状態を維持するのに役立ち、それに伴ってニューロンの神経保護作用( Neuroprotective Effect )をもたらす可能性がある。 ケトジェニック療法について、齧歯動物(ネズミ目)14匹を用いた動物実験による研究がおこなわれている。それらの動物実験でも、ケトジェニック療法が癲癇から脳を保護する作用が確認され、従来から使われてきた抗癲癇薬とはまた別の形で癲癇発作を抑制する作用があることが分かった。臨床の現場で抗癲癇薬としては用いられてはいない「フェノフィブラート」( Fenofibrate )と呼ばれる薬剤があるが、成体のラットに対して実験的に投与したところ、ケトン食に匹敵するほどの癲癇発作の抑制効果が見られた。薬剤を半ダース分投与しても発作の抑制が不可能であった患者に対する有効性を示す研究であるとして、他に類を見ない作用機序を示している。また、ラットにケトン食を取らせたところ、癲癇発作の抑制が確認された。 だが、抗癲癇薬は癲癇発作を抑制する代わりに、発作を予防したり治療したりする効果は無い。癲癇症状の発症の機序については、まだはっきりとは分かっていない部分も多い。バルプロ酸( Valproate )、レベチラセタム( Levetiracetam )、ベンゾジアゼピン( benzodiazepine )といった化合物もあり、これらは動物実験にて癲癇発作の抑制が確認された。 しかし、ヒトに対する臨床試験で癲癇の抑制に成功した抗癲癇薬は、未だに出ていない。
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