生還可能性の検証
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 03:58 UTC 版)
「日本航空123便墜落事故」の記事における「生還可能性の検証」の解説
事故直後より123便が右ではなく左旋回を選択して海へ着水していれば生還者をもっと増やすことが出来たのではないか、という議論があった。事故機は羽田に戻る意向を示しながら墜落してしまったが、生還することは可能であったかどうか全日空が所有するシミュレータを使って、1986年(昭和61年)3月4日から8回に渡って検証した。 シミュレータには123便の事故のような異常事態はプログラムされておらず、ボーイングから空力関係のデータを取り寄せ、全日空や三菱重工などの技術者の助けを借り、プログラムを変更した。操縦は全日空と運輸省航空局から、いずれも経験豊富な教官クラスの機長、副操縦士、航空機関士を4チーム選抜した。 本試験の前に予備試験として、機体に起きた異常をどのくらいの時間で気付くかを確認した。クルーには異常の内容を知らせず、突然操縦舵のいずれかを操作不能にして何が起きたかを答えさせた。エレベータ(昇降舵)については、どのチームも1分以内に異常に気づいたが、エルロン(補助翼)では遅いチームで4分以上、ラダー(方向舵)になると何が起きたか分からないチームもあった。 実際の生還可能性の試験は、自動操縦装置とエンジン出力自動制御装置の故障という一番軽いものから、事故機で起こった全操縦舵故障という一番過酷なものまで5種類用意した。故障の内容を一切知らせず試験させたところ、いずれのチームも利かない操縦桿を必死に操作し続け、墜落させていった。 その後、最適な機体制御方法を学んだ後にシミュレーションを繰り返した1チームは、対気速度200ノット (370 km/h) 以下で着水させるところまで機体を制御できるようになった。ダッチロールはエンジン出力調整で緩和し、高度1,100フィート (340 m) に下がるころにフラップを操作する。フゴイド運動は内側エンジンの出力操作やウィングギア(翼脚)を下げることによって抑えた。 ■最適操作の手順直ちに全エンジンをアイドルに絞る 対気速度はほぼ一定のまま降下を開始 必要ならば内側エンジンのみを用いてフゴイドを抑制 なるべく左右のエンジンの出力に差が生じないようにする フゴイド減衰を強めるため、ウィングギアのみ下げる 遅くとも1,000フィート (300 m) までに着水形態を作り上げるため、早めにオルタネートでFLP(フラップ)操作 低高度では頭上げモーメントを作るため外側 FLPを10ユニット、内側 FLPを20~25ユニットに クルーはスロットル、FLPの操作のみに全力をそそぐ — 事故調査報告書に基づき杉江弘が作成 報告書では、「接水時の対気速度を200ノット (370 km/h) 以下に下げることは不可能と考えられる。沈下率・姿勢等も大きくばらつくため、生還可能性はほとんど期待できない」と結論づけ、建議で「異常な事態における乗組員の対応能力を高めるための方策を検討すること」と示した。
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