生徒への非公式な圧力
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/07 00:37 UTC 版)
進路指導は「同じ中学の生徒はみんな同じ地元の公立高校へ」という理念に基づいて行われた。全校生徒集会やホームルームなどで取り組まれたが、一方で学習塾に通う生徒も増加し、学校外で実施される模擬試験を受験する生徒も多くなった。また高槻市や枚方市では、強い取り組み、つまりは学校教師による事実上の強制がなされ、クラス全員を地元高校へ進学させることもあった。その後、枚方市は市長の交代もあって地元集中をやめていき、高槻市が最後まで実施していたと見られる。 地元集中自体は、受験生を「地元の高校に確実に行かせる」「中学浪人をさせない」という理念を追求したものであるが、受験生の「行きたい高校に行く」という個人の自由が尊重されていないとの問題も指摘され、議論を呼んだ。中学3年次に学級委員、生徒会に選ばれたものは地元高校に行けない成績の場合を除き強制的に地元高校を受験させられ、地元高校に行ける成績にもかかわらずそれ以外の高校への進学意向を明らかにするとホームルームや学年集会の場で「皆を裏切って〇〇高校(進学校や私立高)を受験します」と、皆の前で晒し上げられたり、自ら宣言させる等、糾弾にも近い形で槍玉にされることが日常茶飯事であった。 また、学校によっては生徒やその両親との懇談時に内申書を開示しないなど不正な進路指導も行われ、これらの個人の尊厳を無視した指導により心的外傷を負った生徒も多数いた。地元集中を推し進める学校の意向、生徒を(私学との関係強化の為に)地元校に行かせたくない進学塾の意向、親の意向、本人の意向が絡み合い対立が毎年繰り広げられ、大阪府や埼玉県では教師による私学受験用の調査書の発行拒否や出し渋りなども横行し、数多くのトラブルを生んだ。また、私学受験を快く思わない教師が私学受験を希望する生徒の調査書の評価を意図的に貶めて書く行為も横行したため、調査書の信頼性そのものを揺るがせることとなり、受験判定に際して調査書の内容が占める比重が大幅に低下することにも繋がった。 地元集中の運動の結果として、表面上は公立高校の学力格差が緩和したように見られる地域もある一方、生徒の個性を無視した画一的な進路指導の結果、かかる指導を憂慮して地元中学を忌避し我が子に私立中学進学を選択させたり、中学進学の際に地元集中が行われていない地域への転居を選ぶ保護者が急増することになった。忌避で受験に失敗した生徒が地元中学に行って問題行動を起こす、レベルの低い地元校から私学に忌避しても上位の学校に進学できるよう塾通いをせざるを得なくなる生徒(経済的負担の増加)等の問題もあった。毎年、学級崩壊や校内暴力などが深刻な問題になっている地域の学校を忌避する人達もこの問題に巻き込まれた。 また、公立中学校の進路指導の結果、不本意な進学を強いられた若者が非行に走るケースも多発した他、公立中学校や地域自体でも荒廃がどんどん進み、他方では生徒や卒業生が集団で起こした問題などが原因となって近隣の私立高校から特定の荒廃している中学校が嫌忌されて受験に不利となり受験指導がさらに困難なものになったり、また顧客などからの情報でその様な事情を把握している不動産業などからも地元集中の受験が行われている地域が忌避されるなど、学校の内外へと荒廃と悪循環が繰り返し波及してゆく状況も少なからず発生した。 これらの結果として、地元集中型の受験指導は、総括すれば各公立高校の地盤沈下と荒廃にしかつながらず、生徒や保護者には公立学校教育に対する根強い不信感を植え付け、さらには地域自体の荒廃を招いただけという弊害を残した結果に終わった。また、難関私立高校や国立高校及び国立・私立の中学校の受験競争がかえって激しくなり、教師たちの思惑とは裏腹に、情報交換という形で私立高校・私立中学と学習塾を結び付ける端緒にもなり、受験指導における学習塾の存在感が大きなものになるなど、教師たちにとっては目の上の瘤とも言うべき受験産業がますます繁栄する原動力になってしまった。
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