法案審議手続き
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/16 14:25 UTC 版)
「貴族院 (イギリス)」の記事における「法案審議手続き」の解説
財政法案(Finance act)については庶民院が先議権を有する。また議会法の規定に基づき、財政法案の中でも歳入・歳出のみに関する金銭法案(Money Bill)については貴族院は1か月の遅延権を有するのみで一切修正することができない。非財政法案は庶民院・貴族院どちらから先議しても構わない。法案が財政法案に当たるかどうか判断する権限は議会法の規定により庶民院議長にある。論争的でない法案は貴族院で先議されることが多く、政府提出法案の約3分の1は貴族院で先議されている。法案審議の方法は貴族院も庶民院も大きな差異はないが、庶民院で先議していた場合は貴族院での審議は比較的簡潔に行われる。 実際に法案を議会に提出する前に政府は法案骨子をグリーン・ペーパー(英語版)として公開する。またそれに対する各方面からの意見を考慮ないし反論して政策意図を世に問うホワイト・ペーパー(白書)を公開する。イギリスでは法案を議会に提出した後に法案やその審議を批判することは議会侮辱に相当する可能性があるため、このように法案提出前に法案の詳細を公開することで国民やマスコミの批評を受け付ける。またこの段階から議会での討論も受けるので、国民・マスコミからの批評に政府がいかに答えるかが議会内での与野党討論・修正動議提出に影響を与える。 このやりとりを経て法案は庶民院もしくは貴族院に提出される。貴族院では、大法官(2005年まで。以降は、貴族院議員が就任した場合で以下の役を兼務していない場合)・貴族院院内総務・名誉帯剣紳士隊長(貴族院与党院内幹事長)・女王警護ヨーマン隊長(貴族院与党院内副幹事長)・侍従たる議員(英語版)(貴族院与党院内幹事)などに任命された与党貴族院議員たちが法案可決のための院内交渉に当たる。 貴族院は庶民院と同様に本会議中心主義(読会制)で運営されている。第一読会は形式的なやり取りだけで終わり、法案はただちに第二読会へ送付される。第二読会は法案の概要や目的について討議し、「第二読会を終了する」との動議が可決されると委員会へ送付される。委員会では法案の内容に応じて常任委員会、全院委員会、特別常任委員会のいずれかに送付され、そこで討議されて修正を受ける。貴族院では大抵の場合、全院委員会に送付されている(貴族院議員は登院者がそれほど多くないので全院委員会で行っても弊害が少ない)。なお全院委員会以外で修正された法案は本会議に報告され、本会議の再考慮を仰ぐ。委員会に出席しなかった議員に発言の機会を与えるためである(全院委員会の場合はこの段階は省略)。続いて第三読会にかけられる。庶民院における第三読会は形式的なものだが、貴族院ではここでも修正討論が行われる。「第三読会を終了する」との動議が可決されると法案はその院を通過する。 ほとんどの場合、法案は庶民院においても貴族院においても修正を受ける。庶民院では政治的な観点での修正が主だが、貴族院では字句の整合性・法理的整合性の観点からの修正が主である。そのため貴族院での修正討論は細部にまでわたることが多い。貴族院は政治的な修正はほとんどしないので庶民院に送付されても賛成を得られるのが通常である。庶民院が貴族院の修正を否決した場合は庶民院は貴族院に否決理由を述べて再審議を要求するが、それでも両院が合意できなければ議会法に基づく処置がなされる。ただし現実には議会法の定めが利用されることはほとんどなく、庶民院が貴族院の修正を否決して貴族院に戻した場合は、貴族院はそれに賛成して対決を避けるのが一般的である。 貴族院での表決方法には発声表決と分列表決が取られている。発声表決とは貴族院議長の呼びかけに対して議員たちが「Content(賛成)」「Not Content(反対)」と声を上げ、議長が声の大きい方を可決させる表決方法である。その議長判断に対して異議が出された場合は分列表決が行われる。これは賛否に応じて二列に分かれた議員たちが議場の左右に存在する賛成者用廊下と反対者用廊下を通過して別々の入口から再度貴族院議場に入場し、その際に計算係(tellers)が数を数えてその人数の大小で表決する方法である。
※この「法案審議手続き」の解説は、「貴族院 (イギリス)」の解説の一部です。
「法案審議手続き」を含む「貴族院 (イギリス)」の記事については、「貴族院 (イギリス)」の概要を参照ください。
- 法案審議手続きのページへのリンク