決断主義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/24 14:51 UTC 版)
ヴァイマル期の思想運動は、その急進性によって決断(Entscheidung)と行動の誇示によって特徴付けられる。「決断主義」という言葉まで作り出したこの概念は、元々この時代の政治用語ではなく、第三帝国や民族共同体といった流行スローガンのような大衆の阿片でもなかった。にも関わらずこの概念は、保守革命運動の特定のセクターにとって中心的意義をもっている。それは反民主主義の思想構造の一つの本質的要素である。保守革命派の思想はその全体構造から見て「あれか、これか」の思想だからである。それは決断を呼び掛け、信仰告白を要求し、どんな中間的立場も許さぬ姿勢にある。 混乱した政治的状況を前にして、決断力がとりわけ要請された。ヴァイマル期の急進的諸党派は、政治的宗教の中核組織となり、世俗化した大衆の中に浸透し得なくなった宗教的信仰がかつて有していた決断の要素が、終末論的性格を帯びたこの世の政治的世界観の次元へと移し変えられることになったのである。 保守革命派の思想家による決断主義の潮流によってはじめて、一つの世界観や一人の指導者への献身を無条件に決断するための前提条件が作り出されたが、この献身自体が実は決断からの逃避という性格を含んでいた。クロコフは、カール・シュミットからエルンスト・ユンガーとマルティン・ハイデッガーに至る決断主義に含まれた破壊的ニヒリズムのモメントを指摘している。彼によれば、決断主義は自らではどんな現実的決断をも断固として回避するものであったが故に、かえってその時々の社会運動に猪突猛進的に従属せざるを得なくなる、という逆説的な結論を述べている。決断主義にあっては、元々実質的内容と無関係に決断された思想が最後には本質的関連を求める思想になる、というのである。無論、決断主義そのものは、実際には反民主主義思想の一側面であったに過ぎない。決断主義が当時の知識人に深い感銘を与えたのは、それが現実状況の徹底的な非幻想化を目指したからであり、決断主義こそは反民主主義的精神態度の破壊的性格の核心を形成するものであった。 決断への信仰は、妥協の可能性を信ずる民主主義的信念を排除する。決断主義思想の中には一つの審美的契機が内在しているが、それは即ち決断の一義性、明確性及び首尾一貫性への要求である。この思想は矛盾なく構成された上下秩序に愛着をもち、多くの雑多な勢力が権力への配分を巡って争う状態を一義的で明確な構造に合致しない醜悪な混乱としか考えない。それ故、決断主義のなかには自由主義的、多元主義的構造のように権限の分配や諸勢力の働きかけのルートが縦横に張り巡らされ、極度に複雑な様相を帯びた社会秩序に対する一つの抗議が潜んでいるそうした社会秩序の代わりに人々は、決断の力によって統制され整序された明確な状態を要求したのだった。
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