水の戯れとは? わかりやすく解説

みずのたわむれ〔みづのたはむれ〕【水の戯れ】


ラヴェル:水の戯れ

英語表記/番号出版情報
ラヴェル:水の戯れJeux d'eaux作曲年1901年  出版年1902年  初版出版地/出版社: Demets 

作品解説

2009年9月 執筆者: 安川 智子

 1901年作曲された《水の戯れ》は、パリ音楽院時代総括位置するとともにリストシャブリエらの影響からラヴェル独自の作風へと昇華するきっかけとなった作品ともいえる。作品音楽院における作曲の師であるガブリエル・フォーレ献呈され、1902年級友リカルド・ヴィニェスによって国民音楽協会初演された。
《水の戯れ》に先立つピアノ独奏曲は、《グロテスクなセレナード》、《古風なメヌエット》、《亡き王女のためのパヴァーヌ》といずれも古典的な形式性格的形容つけられている。これはシャブリエの《3つのロマンティックなワルツ》――ラヴェルはヴィニェスとともに、この曲を作曲者の前で演奏した――、《ブーレ・ファンタスク(気まぐれブーレ)》などの影響強く受けたものと考えられる詩的な形容古典形式融合は、《水の戯れ》においてさらに推し進められた形で表れるタイトルリストの《エステ荘の噴水Les jeux d'eaux a la Villa d'Este》(「巡礼の年報第3年より)に触発されているが、楽譜冒頭にはアンリ・ド・レニエの詩「水の祭典」から引用したくすぐられ微笑河の神…」というテキスト添えられている。ラヴェル自身Jeux d’eauという言葉によって、噴水そのものというよりも、光の加減とともに変化する水の色彩と音響表現しようとしていたようだ
水の戯れを制御する噴水規則的なリズム形式性は、淡々と進む8分音符動きソナタ形式原則によって表れ厳密な調性進行とは異な和声変幻自在水の色彩、音響見事に再現している。七の和音もしくは九の和音基調とした分散和音による端正な第1主題(1小節目~)と、ペンタトニック響き作り出す特徴的な旋律による第2主題19小節目~左手)、増音程半音階駆使したアルペジオ和音による装飾的な経過部と展開部経て62小節目から始まる再現部では、第1主題新たに嬰トG♯)の保続音包み込む不協和音複調性はペダル効果魅力的な混合色を作り出し、そこから時折東洋的な音型が浮かび上がる。それはリストのヴィルトゥオジティとはまた異な音のパレットである。


水の戯れ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/05 06:15 UTC 版)

『水の戯れ』
フランス語: Jeux d'eau
ジャンル ピアノ
作曲者 モーリス・ラヴェル
初演 1902年4月5日

水の戯れ』(みずのたわむれ、: Jeux d'eau)は、フランスの作曲家モーリス・ラヴェルパリ音楽院在学中の1901年に作曲したピアノ曲。当時の作曲の師であるガブリエル・フォーレ[1]に献呈された。初演は1902年4月5日サル・プレイエルで行われた国民音楽協会主催のリカルド・ビニェスのピアノ・リサイタルにおいて、『亡き王女のためのパヴァーヌ』とともに初演された[2]

楽曲

冒頭部分

ホ長調、4分の4拍子8分音符=144、きわめて優しく。

ラヴェルは「テンポ、リズムも一定なのが望ましい」と述べており、楽譜の冒頭に、「水にくすぐられて笑う河神」というアンリ・ド・レニエ英語版の詩[3]の一節を題辞として掲げている。曲の構成はソナタ形式。また、七の和音九の和音、並行和声が多用されており、初演当時としてはきわめて斬新な響きのする作品だったと思われる。実際初演時には『亡き王女のためのパヴァーヌ』と比較され、耳障りで複雑すぎるとの評価が大勢で[4]、出版時には「まったくの不協和音」というカミーユ・サン=サーンスの酷評をも招いた[5]。しかし、今日では「水の運動と様態を描いてこれほど見事な作品はあるまい」(三善晃)という評価もあるように、ラヴェルのピアニスティックで精巧な書法が本格的に開花した作品として、高い評価を得ている。また、ピアノ音楽における印象主義の幕開けを告げた作品として、ドビュッシー組曲『版画』1903年)に先んじていることも特筆すべきことである。

この曲はリストの『エステ荘の噴水』(Les Jeux d'Eaux à la Villa d'Este)から影響を受けていると言われるが、ラヴェルは、かねてよりピアノ音楽におけるリストの超絶技巧や、ショパンの詩情あふれる書法などに強く惹かれていたのであった。また、よく比較される作品に、同じく水を題材にしたピアノ曲、ドビュッシー『映像』第1集の第1曲「水に映る影」(または「水の反映」とも訳される)がある。ドビュッシーの「水に映る影」は、水そのものよりも「水に映った風物の輝き、ゆらめき」をより自由な形式で描いているのに対し、ラヴェルの『水の戯れ』は、制御された噴水のような美しい水の動きを古典的なソナタ形式を用いて描いている。

なお、ラヴェルは他にも組曲『』(1905年)の第3曲「海原の小舟」、『夜のガスパール』(1908年)の第1曲「オンディーヌ(水の精)」など、水を題材にしたピアノ曲を残している。

備考

曲名の日本語訳『水の戯れ』は逐語訳であり、フランス語の原題 "Jeux d'eau" は通常は組噴水のことを指す。

脚注

音楽・音声外部リンク
全曲を試聴する
Maurice Ravel: Jeux d'eau - オーチャード英語版「Radial by The Orchard」公式YouTubeチャンネル。
  1. ^ ラヴェルは1898年からフォーレの作曲のクラスに在籍したが、音楽院のフーガのコンクールで入賞できなかったために1900年にクラスを除籍、その後1901年から聴講生として再びフォーレに師事していた。
  2. ^ アービー・オレンシュタイン、井上さつき訳『ラヴェル 生涯と作品』音楽之友社、2006年
  3. ^ 「水の祭典」Fête d’eau(詩集『水の都市』La Cité des Eauxに収録)からの引用(オレンシュタイン、198ページ)。
  4. ^ オレンシュタイン、49ページ
  5. ^ ラヴェルが1901年のローマ賞に入選したとき、サン=サーンスは「ラヴェルという名の三等賞受賞者は重要な経歴を積む運命にあると思われる」と好意的に評価していた(オレンシュタイン、61ページ)。

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