みずのたわむれ〔みづのたはむれ〕【水の戯れ】
ラヴェル:水の戯れ
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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ラヴェル:水の戯れ | Jeux d'eaux | 作曲年: 1901年 出版年: 1902年 初版出版地/出版社: Demets |
作品解説
1901年に作曲された《水の戯れ》は、パリ音楽院時代の総括に位置するとともに、リスト、シャブリエらの影響からラヴェル独自の作風へと昇華するきっかけとなった作品ともいえる。作品は音楽院における作曲の師であるガブリエル・フォーレに献呈され、1902年に級友リカルド・ヴィニェスによって国民音楽協会で初演された。
《水の戯れ》に先立つピアノ独奏曲は、《グロテスクなセレナード》、《古風なメヌエット》、《亡き王女のためのパヴァーヌ》といずれも古典的な形式に性格的形容がつけられている。これはシャブリエの《3つのロマンティックなワルツ》――ラヴェルはヴィニェスとともに、この曲を作曲者の前で演奏した――、《ブーレ・ファンタスク(気まぐれなブーレ)》などの影響を強く受けたものと考えられる。詩的な形容と古典形式の融合は、《水の戯れ》においてさらに推し進められた形で表れる。タイトルはリストの《エステ荘の噴水Les jeux d'eaux a la Villa d'Este》(「巡礼の年報」第3年より)に触発されているが、楽譜冒頭にはアンリ・ド・レニエの詩「水の祭典」から引用した「水にくすぐられて微笑む河の神…」というテキストが添えられている。ラヴェル自身はJeux d’eauという言葉によって、噴水そのものというよりも、光の加減とともに変化する水の色彩と音響を表現しようとしていたようだ。
水の戯れを制御する噴水の規則的なリズムと形式性は、淡々と進む8分音符の動きとソナタ形式の原則によって表れ、厳密な調性進行とは異なる和声が変幻自在な水の色彩、音響を見事に再現している。七の和音もしくは九の和音を基調とした分散和音による端正な第1主題(1小節目~)と、ペンタトニックの響きを作り出す特徴的な旋律による第2主題(19小節目~左手)、増音程や半音階を駆使したアルペジオや和音による装飾的な経過部と展開部を経て、62小節目から始まる再現部では、第1主題を新たに嬰ト(G♯)の保続音が包み込む。不協和音や複調性はペダルの効果で魅力的な混合色を作り出し、そこから時折東洋的な音型が浮かび上がる。それはリストのヴィルトゥオジティとはまた異なる音のパレットである。
水の戯れ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/05 06:15 UTC 版)
『水の戯れ』 | |
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フランス語: Jeux d'eau | |
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ジャンル | ピアノ曲 |
作曲者 | モーリス・ラヴェル |
初演 | 1902年4月5日 |
『水の戯れ』(みずのたわむれ、仏: Jeux d'eau)は、フランスの作曲家モーリス・ラヴェルがパリ音楽院在学中の1901年に作曲したピアノ曲。当時の作曲の師であるガブリエル・フォーレ[1]に献呈された。初演は1902年4月5日、サル・プレイエルで行われた国民音楽協会主催のリカルド・ビニェスのピアノ・リサイタルにおいて、『亡き王女のためのパヴァーヌ』とともに初演された[2]。
楽曲

ラヴェルは「テンポ、リズムも一定なのが望ましい」と述べており、楽譜の冒頭に、「水にくすぐられて笑う河神」というアンリ・ド・レニエの詩[3]の一節を題辞として掲げている。曲の構成はソナタ形式。また、七の和音、九の和音、並行和声が多用されており、初演当時としてはきわめて斬新な響きのする作品だったと思われる。実際初演時には『亡き王女のためのパヴァーヌ』と比較され、耳障りで複雑すぎるとの評価が大勢で[4]、出版時には「まったくの不協和音」というカミーユ・サン=サーンスの酷評をも招いた[5]。しかし、今日では「水の運動と様態を描いてこれほど見事な作品はあるまい」(三善晃)という評価もあるように、ラヴェルのピアニスティックで精巧な書法が本格的に開花した作品として、高い評価を得ている。また、ピアノ音楽における印象主義の幕開けを告げた作品として、ドビュッシーの組曲『版画』(1903年)に先んじていることも特筆すべきことである。
この曲はリストの『エステ荘の噴水』(Les Jeux d'Eaux à la Villa d'Este)から影響を受けていると言われるが、ラヴェルは、かねてよりピアノ音楽におけるリストの超絶技巧や、ショパンの詩情あふれる書法などに強く惹かれていたのであった。また、よく比較される作品に、同じく水を題材にしたピアノ曲、ドビュッシーの『映像』第1集の第1曲「水に映る影」(または「水の反映」とも訳される)がある。ドビュッシーの「水に映る影」は、水そのものよりも「水に映った風物の輝き、ゆらめき」をより自由な形式で描いているのに対し、ラヴェルの『水の戯れ』は、制御された噴水のような美しい水の動きを古典的なソナタ形式を用いて描いている。
なお、ラヴェルは他にも組曲『鏡』(1905年)の第3曲「海原の小舟」、『夜のガスパール』(1908年)の第1曲「オンディーヌ(水の精)」など、水を題材にしたピアノ曲を残している。
備考
曲名の日本語訳『水の戯れ』は逐語訳であり、フランス語の原題 "Jeux d'eau" は通常は組噴水のことを指す。
脚注
音楽・音声外部リンク | |
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- ^ ラヴェルは1898年からフォーレの作曲のクラスに在籍したが、音楽院のフーガのコンクールで入賞できなかったために1900年にクラスを除籍、その後1901年から聴講生として再びフォーレに師事していた。
- ^ アービー・オレンシュタイン、井上さつき訳『ラヴェル 生涯と作品』音楽之友社、2006年
- ^ 「水の祭典」Fête d’eau(詩集『水の都市』La Cité des Eauxに収録)からの引用(オレンシュタイン、198ページ)。
- ^ オレンシュタイン、49ページ
- ^ ラヴェルが1901年のローマ賞に入選したとき、サン=サーンスは「ラヴェルという名の三等賞受賞者は重要な経歴を積む運命にあると思われる」と好意的に評価していた(オレンシュタイン、61ページ)。
外部リンク
- 水の戯れの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
固有名詞の分類
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