歴史と種
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 06:31 UTC 版)
1937年にアメリカの古生物学者ジョージ・ゲイロード・シンプソンに命名され、セベクスは最初に存在を知られたセベコスクス亜目の属の1つとなった。シンプソンはパタゴニアでアメリカ自然史博物館の First Scarritt Expedition でサルミエント累層から発見された下顎と頭骨断片に基づいてタイプ種 S. icaeorhinus を記載した。歯は1906年に知られていたが、この時はアルゼンチンの古生物学者フロレンティーノ・アメギノが肉食恐竜のものと判断していた。シンプソンが発見したさらに完全な標本により、この動物がワニ形上目に属することが確立された。シンプソンの化石は発掘調査で最高の発見と考えられたものの、彼は1937年に本属をわずかに言及しただけであり、歯が側扁した上に鋸歯状構造をなしていた (ziphodont) ことを彼は記載した。シンプソンはより詳細な本属の論文を執筆していたが、完成する前にアメリカ軍に入隊してしまった。別のアメリカ人古生物学者エドウィン・ハリス・コルバートがシンプソンの論文を完成させ、本属を完全に記載してセベクス科に位置付けた。さらにコルバートは、セベクスと白亜紀バウルスクス科の爬虫類バウルスクス(同じく南アメリカから産出)がともに側扁して鋸歯状構造を持つ鋭い歯と深い(左右幅に比して上下高が大きい)吻部を持っていたことから、両者をセベコスクス亜目に分類した。なお、セベコスクス亜目は鋸歯状構造を持つ側扁した鋭い歯のワニ形上目の属全てを含む分類群としてシンプソンが設立した分類群である。 セベクスという名前は古代エジプトのワニの神セベク(またはソベク)のラテン語化した形である。セベクはギリシャ語のχάμψαιにあたるか、あるいはワニの用語体系での "champsa" にあたる。ギリシャの歴史家ヘロドトスは champsa がエジプトの言語でワニを意味すると主張している。タイプ種の種小名 icaeorhinus はギリシャ語のεικαίοs と ρύγχος から派生したもので、Εικαίοs は「無作為」あるいは「計画に準拠しない」という意味を持ち、ρύγχος は「吻部」を意味する。これはセベクスの吻部が異様に深いことを反映している。 1965年にアメリカの古生物学者ワン・ラングストン・ジュニアは、コロンビアのラ・ベンタ産地の Honda 累層から産出した頭骨断片に基づき、セベクス属の第2の種である S. huilensis を命名した。この堆積層は約1300万年前のものであり、セベクス属の生息期間を新第三紀まで約4000万年引き延ばすものである。1977年にペルーの中新世の地層からも化石が記載された。 セベクス属第3の種 S. querejazusは、1991年に暁新世にあたるボリビアのサンタ・ルチア累層から命名された。これによりセベクス属の生息期間は白亜紀末の大量絶滅の直後にあたる暁新世の始まりにまで遡った。1993年にズルマ・ガスパリニらは Sebecus carajazus を記載した。これは Sebecus querejazus のスペルミスあるいは書き間違いであり、第4の種ではなかった。 2007年のセベクス科の種ごとの分類が研究され、S. huilensis と S. querejazus の2種はそれぞれの属 Zulmasuchus とラングストニアとして独立した。Langstonia huilensis はラングストンにちなんで命名され、吻部が狭いことと歯の間隔が広いことからセベクスと区別された。Zulmasuchus querejazus は本研究の論文執筆者の1人であるズルマ・ガスパリニにちなんで命名され、吻部が広いことからセベクスと区別された。 S. icaeorhinus の頭骨以降の骨格は実質的には知られていなかったが、Pol et al. (2012) で本種の複数個体の頭骨以降の骨格が記載され、歯骨の後部と頭部以降の骨格の大部分が保存された、部分的に関節した標本 MPEF-PV 1776 もこの時記載された。この歯骨により、本種を代表する個体として同定が可能である。MPEF-PV 1776 の推定される全長は2.2 - 3.1メートル、体重は52.2 - 113.5キログラムと幅が広い。セベクスの頭骨以降の骨格はこの動物が地上性であったことの証拠を提示している。四肢、特に大腿骨は現生ワニ類よりも比率として長い。肩から臀部までの長さは大腿骨の2.3倍と推定され、近縁でない陸上性のワニ形上目であるプリスティカンプサスと類似する。一方で、アメリカアリゲーターの大腿骨は比率としてさらに短い。
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