欧州域外の地理的表示の保護と欧州の地理的表示の域外での保護
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/31 19:44 UTC 版)
「原産地名称保護制度」の記事における「欧州域外の地理的表示の保護と欧州の地理的表示の域外での保護」の解説
知的所有権の保護を定めるTRIPS協定によれば、知的所有権に関して自国民に認める待遇より不利でない待遇を他国の国民にも与えなけれはならないことになっているが、ヨーロッパで地理的表示の保護制度が確立された当初は必ずしもそうなってはいなかった。 そのため、1999年にアメリカは、当時のヨーロッパの地理的表示保護制度を規定した欧州理事会規則No 2081/92に関して、当時の欧州共同体に対して関税及び貿易に関する一般協定 (GATT) 22条に基づく二国間協議を申し入れた(WTO紛争案件番号 DS174)。2003年にもアメリカが議題を追加し再度二国間協議を申し入れたが、結局、二国間協議では解決できなかった。そこでアメリカはWTOの紛争解決機関 (DSB:Dispute Settlement Body) にパネル(小委員会)の設置を要請した。オーストラリアと欧州共同体との間でも同様の紛争があったので(WTO紛争案件番号 DS290)、DSBはまとめて一つのパネルを設置した。 アメリカが主張したことは主に次の二点にまとめることができる。 地理的表示の保護に関して、欧州域外の国の国民と製品が差別されている。 欧州域外の商標が保護されていない。 これをうけてパネルが欧州理事会規則を精査したが、結果をまとめると以下の四点のようになる。 保護の有効性 欧州理事会規則は欧州域外の政府の地理的表示保護の手続きが欧州のものと同等 (equivalence) であることを求めており、欧州で保護されている地理的表示が欧州域外の政府の下でも互恵的に保護されるべきである (reciprocity) としていることは、TRIPS協定3条1項およびGATTIII条4項に違反しているとした。というのも、確かに“公式的には同じもの”を適用しているが、それが欧州域外の国民や製品に対する機会の平等をゆがめているとみなした。 申請及び異議申し立ての手続き WTO加盟国が欧州と同様の仕組みを作る義務がない以上、欧州における欧州域外の地理的表示の保護を申請する手続きに必ずしも対応できるとは限らず、異議の申し立てにしても欧州共同体とは無関係の自国の政府に対して行わなければならないのは同じ待遇とは言えないと判断し、GATTXX条 (d) で規定される例外として正当化されるものではないとした。 検査の枠組み 欧州理事会規則は、保護された地理的表示の対象となっている製品があらかじめ決められた仕様に合っているかどうかを検査する仕組みを求めており、欧州域外の者が地理的表示の保護を申請する場合、その地域に検査の仕組みがあるという宣言書を添付することになっていた。しかし、WTO加盟国は欧州理事会規則で定められている検査の仕組みを自国内で確立しなければならない義務はなく、したがって欧州域外の申請者はそのような検査の仕組みを利用できる権利もなけれは、そのような仕組みづくりを自国の政府に求める権利もなく、結果として欧州域内での地理的表示の保護を受けられないことになっていると判断した。 商標との関係 保護された地理的表示と混同することを防ぐために、欧州理事会規則ではすでに登録されている商標の権利を認めておらず、これは商標の権利を定めたTRIPS協定16条1項に違反するとアメリカは申し立てた。しかしパネルは、このことはTRIPS協定17条の例外規定によって正当化されるとみなした。 このパネルの報告書を受けて、欧州連合は欧州理事会規則No2081/92、No2082/92 を改めた。 欧州連合は欧州域内での地理的表示の保護に熱心に取り組んでいる一方で、二国間、多国間に関わらずそれぞれの貿易交渉において欧州の地理的表示の権利が欧州外でも保護できるような内容の貿易協定を締結するようにも努力している。前述のとおり、貿易相手国すべてに対し欧州規則で一律に相手の同意なく欧州同様の地理的表示の保護制度を要求するのはTRIPS協定違反であるが、個別の貿易交渉で参加者が欧州の求める地理的表示保護を実現する協定を結ぶのならば、それはもちろん問題にはならない。欧州連合は次のようなTRIPSプラスを提案している、とラマンは2013年のレポートで述べている。 ワインや蒸留酒に対して与えられている地理的表示の保護のレベルの範囲を他の農産物や食品への拡大。 ワイン、蒸留酒、その他の農業製品を含む41の欧州産製品の地理的表示の保護の自動的、絶対的付与。 多国間の地理的表示の登録で、参加国・非参加国を問わず法的に有効なものの導入。 地理的な名称を含むか、それと一致する商標の使用の禁止、取り消し、登録の拒否。 現存する生産者や良く知られている保護された地理的表示を認めるための、地理的名称の保護の例外と制限を見直す選択肢の調査。 日欧EPAの交渉においても、ゴルゴンゾーラなどの欧州で保護されている地理的表示のいくつかが日本でも保護される事になった。もちろん日本で保護されている地理的表示の一部も互恵的に欧州において保護される。
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