構成と審美的評価
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/14 04:40 UTC 版)
『モナ・リザ』の女性像は、シンプルで安定感のある三角形の構図で描かれており、重ねられた両手が三角形の底辺を構成している。胸、首、顔、手は光源を同じくする光に照らし出され、光の効果が丸みを帯びたさまざまな表情を女性に画面に与えている。レオナルドは、座する聖母マリアが描かれた、当時の典型的ともいえる構成で『モナ・リザ』の女性を描いている。レオナルドがこのような構成で『モナ・リザ』を描いたのは、この女性像と作品の鑑賞者に距離感を持たせる効果を意図していた。左腕が乗せられた椅子の肘掛が『モナ・リザ』と鑑賞者とを隔てる役割を担っている。 女性は背筋を伸ばして座り、重ねられた両手は控えめな立ち振る舞いを意味している。視線はまっすぐに鑑賞者に向けられ、この静謐な空間を共有することを歓迎しているかのように見える。光に照らし出された明るい顔は、髪の毛、ベール、陰影などの暗い部分によってさらに強調されている。女性の顔は、レオナルドが用いた新たな技法によって不思議な表情を与えられている。輪郭を描くのではなく「主に口角と眼周辺を表現する (Gombrich)」スフマートの技法で女性の顔が描かれている。現在ルーヴル美術館が所蔵する、ラファエロの『バルダッサーレ・カスティリオーネの肖像』は、1514年から1515年ごろに描かれた絵画で、間違いなく『モナ・リザ』の影響を受けている作品である。 『モナ・リザ』は空想的な風景を背景にして、一人の座る女性を描いた最初期の肖像画の一つである。レオナルドは空気遠近法 (en:aerial perspective) を絵画に取り入れた最初の画家の一人でもある。この謎めいた女性は、暗色の柱に支えられた開かれたロッジアの中に座っている。背景にはうっすらとした凍てついた山並みなど広大な風景が描かれている。曲がりくねった小路と遠景の橋には、一人の人影も見えない。官能的に波打つ髪と衣服は、うねるように表現された背後の谷や川と調和している。ぼやけた輪郭、優美な女性像、明暗の劇的な対比、そして静謐さに満ちた雰囲気は、レオナルドの作風の典型ともいえる。レオナルドが成しえた女性像と空想上の風景との融合表現が、『モナ・リザ』が伝統的な肖像画なのか、それとも実在の女性ではなく理想的な女性を表現したものなのかという議論の原因ともなっている。 『モナ・リザ』に描かれている女性や風景については様々な臆測がある。例えば「15世紀後半の美的感覚、さらには21世紀の美的感覚に照らしても」モデルの女性が美しくは描かれていないことから、レオナルドは忠実にモデルの女性を写し取ったと考えられるなどといった説がある。また、矢代幸雄のように、『モナ・リザ』の背景に描かれている風景画が、中国の山水画の影響を受けていると主張する西洋美術史家もいる。しかしながら、これらの推測には確たる証拠がないため異論も多い。
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