極限環境
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/15 07:57 UTC 版)
古細菌は生物圏の広い範囲に分布し、最大で地球上の総バイオマスの20%を占めるとも言われている。純粋培養が可能な古細菌の多くは、間欠泉やブラックスモーカー、油田、塩田、塩湖、強酸、強アルカリ環境などのヒトから見て極限環境に生息するものがほとんどであり、このため歴史的に極端な環境のみに分布すると考えられてきた(極限環境微生物)。実際、20世紀末まで通常の土壌・水系から古細菌が分離されることは、一部のメタン菌を除き殆ど無かった。これらの極限的な環境に生息する古細菌は、大まかに高度好塩菌、超好熱菌、好熱好酸菌へと区分することができる。高度好塩菌は、20-25%のNaCl濃度で盛んに増殖し、塩湖など非常に塩濃度の高い環境に生息する。アフリカや中国の塩湖の中にはpHが10を超えるものもあり、このような環境からは、好アルカリ性高度好塩菌が分離されている。有名なものとして、pH12で増殖できる高度好塩菌Natronobacterium gregoryiがある。高度好塩菌は特別な培養装置を必要とせず、基本的には培地に塩を加えるだけで良いので、2018年現在記載種は250種近くに達している(これは古細菌ドメインに記載されている種の半数に近いが、古細菌の半分が好塩菌ということではなく、単に培養の容易さを反映している)。 好熱菌は温泉など45°C以上の環境でよく活動するものをいう。このうち80°C以上に至適生育温度を持つものを超好熱菌と呼ぶ。Methanopyrus kandleri Strain 116は、全生物中最も高温で生育する生物として知られ、122°Cで増殖が可能と報告された。このほかPyrococcus、Pyrodictiumなどがあり、温泉や陸上硫黄孔、火山、海底熱水噴出孔などの多様な熱水系に生息する。嫌気性のものが多いが、偏性好気性の超好熱菌もAeropyrum pernix、Sulfurisphaera tokodaiiなど幾つかいる(後者は好酸性も兼ねる)。 硫黄分を含む熱泉では、硫黄が酸化されてしばしば強い酸性になる。強酸を好む好熱好酸菌は、スルフォロブス目やテルモプラズマ目に代表され、温泉や硫気孔、ボタ山などから発見される。初期に発見されたものとしてはSulfolobusやThermoplasmaなどがある。好酸菌の極端な例としては、pH-0.06(1.2M硫酸溶液下に相当)で増殖する好熱好酸菌Picrophilusがいる。Stygiolobus azoricusを除き、大半が偏性好気性か通性嫌気性である。 また、超好熱菌、好熱好酸菌などの菌群は表現型による区分であり、系統による分類と一致するとは限らない。高度好塩菌はハロバクテリウム綱、好熱好酸菌はテルモプラズマ目及びスルフォロブス目にほぼ一致するが、超好熱菌は古細菌ドメインの広い分類範囲に存在し、むしろ超好熱菌のいない目の方が少数派である。また、場合によっては複数条件で極限環境微生物と言えるものもあり、Methanonatronarchaeum thermophilumなどは、好熱性・好アルカリ性かつ強い好塩性のメタン菌である。そのほかにも、超好熱かつ好酸性のSulfurisphaera ohwakuensis(限界温度92℃、限界pH1)、超好熱かつ好アルカリ性のThermococcus alkaliphilus(限界温度90℃、限界pH10.5)などがある。 各生育・生存パラメータにおける代表種と限界値は以下のとおりである 高温:Methanopyrus kandleri 122℃ アルカリ性:Natronobacterium gregoryi pH12 酸性:Picrophilus oshimae pH-0.06(マイナス0.06) 高NaCl濃度:Halobacterium salinarumなど 飽和濃度 高圧力:Pyrococcus yayanosii 1200気圧 放射線:Thermococcus gammatolerans 30000グレイのガンマ線を照射しても一部は生き残る(Cs137線源) なお、極限環境微生物と古細菌はしばしば同義として使われることがあるが、すべての古細菌が極限環境微生物というわけではなく、同様にすべての極限環境微生物が古細菌というわけではない。極限環境で生育する細菌も多数存在しており、少数ではあるが超好熱性の細菌も知られている。とはいえ、やはり細菌は医療細菌や常在細菌の存在感が大きく、古細菌ほどは極限環境微生物の割合は多くない。
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