極限法則としての理想気体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/19 06:14 UTC 版)
「理想気体」の記事における「極限法則としての理想気体」の解説
詳細は「実在気体」および「圧縮率因子」を参照 理想気体は気体の理論モデルである。理想気体は想像上の存在である、といってもよい。ボイル=シャルルの法則が厳密に成り立つ気体は、現実には存在しない。理想気体の法則は、低圧の状態に近づくにつれて実在気体でも厳密に成り立つようになる極限法則である。 実在気体が理想気体と若干異なる性質を持つのは、気体分子に体積があり、分子間力が働いているためである。温度 T と分子数 N が一定の場合、気体が低圧の状態に近づくということは、気体分子の数密度が減るということだから、気体分子の体積と分子間力について次のことが言える。 実在気体の体積中で気体分子の占める体積の割合は、温度が同じなら低圧ほど小さくなり、圧力ゼロの極限でゼロになる。分子が集まってできた固体の圧縮率や熱膨張率は、常温・常圧の気体と比べてはるかに小さい。このことから、分子自体の大きさは、温度や圧力によってさほど変化しないと考えられる。よって分子の数密度が減れば、気体分子の占める体積の割合は小さくなる。 実在気体の気体分子間に働く分子間力は、温度が同じなら低圧ほど弱くなり、圧力ゼロの極限でゼロになる。低密度になるほど、分子間の平均距離が長くなる。分子同士が離れているほど、分子間力は弱くなる。個々の分子がほかの分子の影響を受けずに過ごす時間は低密度になるほど長くなる、といってもよい。 どんな気体でも温度を一定に保ったまま低圧にすると、気体分子の体積と分子間力が無視できるようになるので、ボイル=シャルルの法則が成り立つようになる。実在気体の状態方程式はすべて、低密度で理想気体に漸近する形になっている。例えばファンデルワールスの状態方程式 p = R T V m − b − a V m 2 {\displaystyle p={\frac {RT}{V_{\text{m}}-b}}-{\frac {a}{{V_{\text{m}}}^{2}}}} あるいはビリアル方程式 p = R T V m ( 1 + B V ( T ) V m + C V ( T ) V m 2 + . . . ) {\displaystyle p={\frac {RT}{V_{m}}}\left(1+{\frac {B_{V}(T)}{V_{m}}}+{\frac {C_{V}(T)}{V_{m}^{2}}}+...\right)} はどちらも、温度 T 一定、モル体積 Vm → ∞ の極限で理想気体の状態方程式となる。 同じ理由で、どんな気体でも圧力を一定に保ったまま高温にすると、密度が減少して気体分子の体積と分子間力が無視できるようになるので、ボイル=シャルルの法則が成り立つようになる。ただしある程度の高温になると、どんな気体でも分子の解離や電離(プラズマ化)が起こるため、分子数 N が温度や圧力によって変化するようになる。そのような高温領域では、アボガドロの法則とドルトンの法則は成り立っても、ボイル=シャルルの法則は成り立たなくなる。それゆえ「理想気体の法則は高温の状態に近づくにつれて実在気体でも厳密に成り立つようになる極限法則である」ということはできない。
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