柳瀨尚紀とは? わかりやすく解説

やなせ‐なおき〔‐なほキ〕【柳瀬尚紀】

読み方:やなせなおき

19432016英文学者翻訳家北海道生まれキャロルの「不思議の国のアリス」のほか、実験的な文体知られるジョイスの「フィネガンズウェイク」など、多く翻訳を手がけた。


柳瀬尚紀

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/12 20:16 UTC 版)

柳瀬 尚紀(やなせ なおき、1943年3月2日 - 2016年7月30日[1])は、日本英文学者翻訳家随筆家

語呂合わせなどの言葉遊びを駆使した独自の文体で『フィネガンズ・ウェイク』などの翻訳を行った。「悪訳」をするとみなした翻訳家に対しては痛烈な批判を行った。

来歴・人物

北海道根室市出身。1965年早稲田大学第一文学部卒業、1967年大学院文学研究科修士課程卒業、1970年大学院文学研究科博士課程満期終了退学。1977年成城大学助教授1991年に辞職。

1976年エリカ・ジョング『飛ぶのが怖い』の訳書がベストセラーとなり、「飛んでる女」が流行語となる。その後もジョング作品の翻訳を続けている。コレット・ダウリング『シンデレラ・コンプレックス』の訳はロングセラーとなった。

ルイス・キャロルの翻訳も多く、高校時代に数学者を志していた[2]ほどで、数学に詳しい。前衛的な文学作品を多数翻訳。英語・国語辞書や翻訳・国語論に関する著作も多い。

趣味の領域を超えた活動も数多く、関連書籍も刊行した。

  • 1981年に、第3回日本雑学大賞を受賞。
  • 1987年には「猫の日制定委員会」を発足させるなど、猫好きである。
  • 将棋ファンであり、将棋に関する著作を米長邦雄羽生善治との共著で数冊出している。
  • 競馬では「中央競馬GI 競走出走馬馬名プロファイル」を開催日に配布されるレーシングプログラムに掲載している。アナグラムの多用が特徴である。また、2008年より使用されている中央競馬の新馬戦の呼称「メイクデビュー」を考案した。

2016年7月30日に肺炎のため没した。

ジョイスの翻訳

大学院時代に鈴木幸夫教授のグループでジェイムズ・ジョイスの翻訳を『早稲田文学』に連載していた[3]

翻訳不可能と言われたジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を独自の造語を用いて翻訳したことは話題となり、日本翻訳文化賞BABEL国際翻訳大賞日本翻訳大賞を受賞。また、『ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』(岩波新書)では『ユリシーズ』12章の語り手がであるという新説を打ち出した。

『ユリシーズ』訳を継続中のまま、2016年7月に逝去。同年12月に『ユリシーズ 1 - 12』(12章まで)が刊行された[4]。2017年7月に刊行された『ユリシーズ航海記 「ユリシーズ」を読むための本』(河出書房新社)には、「ユリシーズ 13 - 18 試訳と構想」という一章に、未刊に終わった第13章から18章の試訳(一部は断章)が掲載された[5]

著書

  • 『ノンセンソロギカ 擬態のテクスチュアリティ』(朝日出版社、エピステーメー叢書) 1978年
  • 『翻訳困りっ話』(白揚社) 1980年、のち河出文庫 1992年
  • 『英語遊び』(講談社現代新書) 1982年、のち河出文庫 1998年
  • 『翻訳からの回路』(白揚社) 1984年、のち改題『翻訳は実践である』(河出文庫) 1997年 
  • 『ズーっとみんななかよしニャンだ』(開隆堂出版) 1985年
  • 『ナンセンス感覚』(講談社現代新書) 1986年、のち河出文庫 1998年
  • 『フィネガン辛航紀 『フィネガンズ・ウェイク』を読むための本』(河出書房新社) 1992年 
  • 『辞書はジョイスフル』(TBSブリタニカ) 1994年、のち新潮文庫 1996年
  • 『ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』(岩波新書) 1996年
  • 『G1出走馬馬名読本』(ミデアム出版社) 1998年
  • 広辞苑を読む』(文春新書) 1999年
  • 『翻訳はいかにすべきか』(岩波新書) 2000年
  • 『猫舌流英語練習帖』(平凡社新書) 2001年
  • 『猫舌三昧』(朝日新聞社) 2002年
  • 『猫と馬の居る書斎』(自由国民社) 2003年
  • 『辞書を読む愉楽』(角川選書) 2003年
  • 『言の葉三昧』(朝日新聞社) 2003年
  • 『日本語は天才である』(新潮社) 2007年
  • 『日本語ほど面白いものはない 邑智小学校六年一組特別授業』(新潮社) 2010年
  • 『ユリシーズ航海記 「ユリシーズ」を読むための本』(河出書房新社) 2017年
  • 『ことばと遊び、言葉を学ぶ』(河出書房新社)2018年

共編著

  • 『<カン>が<読み>を超える』(米長邦雄対談、朝日出版社、Lecture books) 1984年、のち改題『「運とカン」を磨く』(講談社+α文庫) 1994年
  • 『やるっきゃない英文読解』(千倉真理共著、日本翻訳家養成センター) 1984年
  • 『『ジャック&ベティ』の英語力で英語は読める 最強の教科書英語による英語講座』(開隆堂出版) 1987年
  • 『猫百話』(編、ちくま文庫) 1988年
  • 『突然変異幻語対談 汎フィクション講義』(筒井康隆対談、朝日出版社、Lecture books) 1988年、のち河出文庫 1993年
  • 『対局する言葉 羽生v.s.ジョイス』(羽生善治対談、毎日コミュニケーションズ) 1996年、のち河出文庫 1996年
  • 『辞書 日本の名随筆・別巻74』(編、作品社) 1997年
  • 『ことば談義寐ても寤ても』(山田俊雄対談、岩波書店) 2003年
  • 『勝ち続ける力』(羽生善治共著、新潮社) 2009年、のち新潮文庫 

翻訳

  • 『トロール』(B・S・ジョンソン、筑摩書房) 1969年
  • 『もう森へなんか行かない』(エドゥアール・デュジャルダン、鈴木幸夫共訳、都市出版社) 1971年
  • 『ボルヘスとの対話』(リチャード・バーギン、晶文社、晶文選書) 1973年
  • 幻獣辞典』(ホルヘ・ルイス・ボルヘス, マルガリータ・ゲレロ、晶文社) 1974年、のち新版 1998年、2013年、のち河出文庫 2015年5月
  • 『ボルヘス怪奇譚集』(ボルヘス, アドルフォ・ビオイ=カサレス、晶文社) 1976年、のち新版 1998年、のち河出文庫 2018年4月
  • 『死父』(ドナルド・バーセルミ集英社、現代の世界文学) 1978年
  • 『パラドクスの匣』(パトリック・ヒューズ, ジョージ・ブレヒト、朝日出版社、エピステーメー叢書) 1979年
  • 『猫文学大全』(George MacBeth,Martin Booth編、大和書房) 1980年、のち河出文庫 1990年
  • 『犯罪は詩人の楽しみ 詩人ミステリ集成』(エラリー・クイーン編、創元推理文庫) 1980年
  • 『雪白姫』(バーセルミ、白水社) 1981年、のち白水Uブックス
  • 『ゆうべ女房をころしてしもうた(世界のライト・ヴァース)』(編訳、書肆山田) 1982年
  • 『ニューヨークの猫たち』(テリー・ドゥロイ・グルーバー、講談社) 1982年
  • 『ナンセンスの絵本』(エドワード・リア、ほるぷ出版) 1985年、のちちくま文庫 1988年、のち岩波文庫 2003年
  • ゲーデル、エッシャー、バッハ - あるいは不思議の環』(ダグラス・ホフスタッター野崎昭弘,はやしはじめ共訳、白揚社) 1985年
  • 『核戦争ブラック・ブック』(マーク・イアン・バラシュ、西条裕美子共訳、白揚社) 1985年
  • 『魔女 魔女談なんて、ま、冗談?』(コリン・ホーキンズと魔女1名、サンリオ) 1985年
  • シンデレラ・コンプレックス』(コレット・ダウリング、三笠書房) 1985年、のち三笠文庫 1986年
  • 『宇宙の起源 最新データが語る宇宙の誕生』(マルコム・S・ロンゲア、河出書房新社) 1991年
  • マルセル・デュシャン論』(オクタビオ・パス宮川淳共訳、書肆風の薔薇) 1991年
  • 『イースト・イズ・イースト』(T・コラゲッサン・ボイル、新潮社) 1992年
  • 『4人のちびっこ、世界をまわる』(エドワード・リア、ほるぷ出版) 1992年
  • 『ラブストーリー、アメリカン』(ジョエル・ローズ, キャサリン・テクシエ、新潮文庫) 1995年
  • 『王』(バーセルミ、白水社) 1995年
  • 『肖像のジェイムズ・ジョイス』(ボブ・ケイトー, グレッグ・ヴィティエッロ、河出書房新社) 1995年
  • 『ユリシーズのダブリン』(編訳、河出書房新社) 1996年
  • 『なんでもハップンとんちん旧館物語』(レオ・ハータス、フレーベル館) 1996年
  • ケロッグ博士』(T・コラゲッサン・ボイル、新潮文庫) 1996年
  • 『名画にしのびこんだ猫』(マイケル・パトリック、河出書房新社) 1999年
  • 『オデット』(ロナルド・ファーバンク、講談社) 2005年
  • 『ブランコあそびにいくんだい!』(ケイト・クランチィ、評論社) 2005年
  • 『帆かけ舟、空を行く』(クェンティン・ブレイク、評論社) 2007年
  • 『カタツムリと鯨』(ジュリア・ドナルドソン、評論社) 2007年
  • 『天使のえんぴつ』(クェンティン・ブレイク、評論社) 2008年
  • 『聖ニコラスがやってくる!』(クレメント・C・ムーア、西村書店) 2011年
  • 『リアさんって人、とっても愉快! エドワード・リア ナンセンス詩の世界』(エドワード・リア文、ロバート・イングペン絵、西村書店) 2012年
  • 窓から逃げた100歳老人』(ヨナス・ヨナソン英語版、西村書店) 2014年 
  • キャロライン・ケネディが選ぶ「心に咲く名詩115」』(早川書房) 2014年
  • 『リスからアリへの手紙』(トーン・テレヘン、河出書房新社)2020年

ジェイムズ・ジョイス

ルイス・キャロル

  • シルヴィーとブルーノ』(ルイス・キャロル、れんが書房新社) 1976年、のちちくま文庫 1987年
  • 『不思議の国の論理学』(ルイス・キャロル、朝日出版社) 1977年、のち河出文庫 1990年、のちちくま学芸文庫 2005年
  • 『もつれっ話』(ルイス・キャロル、れんが書房新社) 1977年、のちちくま文庫 1989年
  • 『枕頭問題集』(ルイス・キャロル、朝日出版社、エピステーメー叢書) 1978年
  • 『かつらをかぶった雀蜂』(ルイス・キャロル、れんが書房新社) 1978年
  • ふしぎの国のアリス』(ルイス・キャロル、集英社、少年少女世界の名作) 1982年 、のち改題『不思議の国のアリス』(ちくま文庫)
  • 鏡の国のアリス』(ルイス・キャロル、ちくま文庫) 1988年
  • 『アリス! 絵で読み解くふたつのワンダーランド』(ルイス・キャロル、山本容子絵、講談社) 2010年

ロアルド・ダール

  • 『おばけ桃が行く』(ロアルド・ダール、評論社、ロアルド・ダールコレクション1) 2005年
  • チョコレート工場の秘密』(ロアルド・ダール、評論社、ロアルド・ダールコレクション2) 2005年
  • 『ガラスの大エレベーター』(ロアルド・ダール、評論社、ロアルド・ダールコレクション5) 2005年
  • アッホ夫婦』(ロアルド・ダール、評論社、ロアルド・ダールコレクション9) 2005年
  • すばらしき父さん狐』(ロアルド・ダール、評論社、ロアルド・ダールコレクション4) 2006年
  • 『ダニーは世界チャンピオン』(ロアルド・ダール、評論社、ロアルド・ダールコレクション6) 2006年
  • 『奇才ヘンリー・シュガーの物語』(ロアルド・ダール、評論社、ロアルド・ダールコレクション7) 2006年
  • 『ことっとスタート』(ロアルド・ダール、評論社、ロアルド・ダールコレクション18) 2006年
  • 『どでかいワニの話』(ロアルド・ダール、評論社、ロアルド・ダールコレクション8) 2007年
  • 『したかみ村の牧師さん』(ロアルド・ダール、評論社、ロアルド・ダールコレクション19) 2007年
  • 『一年中わくわくしてた』(ロアルド・ダール、評論社、ロアルド・ダールコレクション20) 2007年
  • 『「ダ」ったらダールだ!』(ロアルド・ダール、評論社、ロアルド・ダールコレクション別巻2) 2007年
  • 『きゃくいんソング』(ロアルド・ダール、評論社) 2008年

エリカ・ジョング

  • 『飛ぶのが怖い』(エリカ・ジョング、新潮文庫) 1976年、のち河出文庫 2005年
  • 『あなた自身の生を救うには』(エリカ・ジョング、新潮社) 1978年、のち新潮文庫 1979年
  • 『魔女たち』(エリカ・ジョング、サンリオ) 1982年
  • 『ファニー』(エリカ・ジョング、新潮社) 1985年
  • 『ブルースを、ワイルドに』全2冊(エリカ・ジョング、文春文庫) 1996年

脚注

  1. ^ “柳瀬尚紀さん死去 「不思議の国のアリス」など翻訳”. 朝日新聞. (2016年8月2日). http://www.asahi.com/articles/ASJ825QW3J82UCLV00T.html 2016年8月2日閲覧。 
  2. ^ 現代新書編集部『外国語をどう学んだか』(講談社現代新書、1992年)
  3. ^ 鈴木佐代子『立原正秋風姿伝』中公文庫
  4. ^ 部分訳3冊を1996-1997年に刊行し、残りの一部を断続的に『文藝』などに掲載したが、2016年時点で13 - 16章、18章が未発表。『文藝』の担当編集者によると、死去前日まで『ユリシーズ』の翻訳の打ち合わせをおこなっており、2017年暮れには全訳が「本になる」予定だったという。「悼む 柳瀬尚紀さん」毎日新聞2016年8月29日朝刊5頁。
  5. ^ 池内紀[https://mainichi.jp/articles/20170718/org/00m/040/031000c 『ユリシーズ航海記』(柳瀬尚紀・著) - 毎日新聞2017年7月18日(書評)



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