杜氏集団の形態変化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/21 08:16 UTC 版)
上記のような伝統的な杜氏集団の有りようは、1980年代頃から急速に変化してきている。杜氏の数は年々減少しており、各杜氏集団は後継者不足に悩むようになった。流派によっては既に一つの独立した流派としては立ち行かないため、近隣の流派との合併を図ったところもある。 こうした背景には、現役の杜氏の高齢化とともに、以前は貧しい寒村であるがゆえに杜氏集団を輩出してきた地方が、農業や漁業だけでも暮らしていける社会になり、出稼ぎに行く必要がなくなったという時代的趨勢がある。また若者も、安定収入が得られる企業に就職を希望するようになり、かつての地方の青年が抱いていた「杜氏になれば御殿が建つ」といったイメージは、既に過去のものになりつつある。杜氏の出身地から遠く離れた土地では、蔵元が酒を造りたくても杜氏が確保できないという深刻な事態が起きている。 このような変化を受けて、蔵元の中には自らが杜氏を兼ねる杜氏兼蔵元またはオーナーマイスターなどという経営スタイルが生まれてきた。また、かつての立身出世のイメージではなく、衰退しつつある日本酒文化を守ろうといった動機から、多くの若い杜氏が生まれている。なかには一人蔵(ひとりぐら)といって生産・経営・営業など全て独りで行なう小規模精鋭主義の酒蔵も生まれている。 旧国名を冠した伝統的な杜氏流派とは別に、栃木県(旧下野国)では、栃木県酒造組合が試験を課して資格認証する「下野杜氏」制度を2006年に始めた。 また、1994年に和久井映見主演のテレビドラマ『夏子の酒』が放送されたことで、女性の醸造従事希望者が急増 して、女性の杜氏も多く誕生している。「全国女性蔵人の美酒を味わう夕べ」「蔵女性サミット」のように女性杜氏や女性蔵元ならではの蔵のネットワークも形成されてきている。 なお、かつては酒造りの場を女人禁制としていた酒蔵が多かったが、前述のように、古代において酒造りは女性が担っていた。湊洋志は、女人禁制は江戸時代以降の現象と推測している。 一方で、コンピュータ制御によるオートメーションで酒を生産している大手酒造メーカーなどでは、杜氏はこのコンピュータを監視する者だけで、酒造メーカーが短期で雇う雑用のアルバイトで配下の蔵人を賄う場合も増えてきている。
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