日本における権利の位置づけ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/03 03:15 UTC 版)
「忘れられる権利」の記事における「日本における権利の位置づけ」の解説
日本は議論が成熟しにくい状況にある。インターネットサービスプロバイダがプロバイダ責任制限法に従って、ウェブサイトの削除要請に自主的に応じているため、問題が顕在化しにくい。また、プロバイダに限らず、検索エンジン側も自主的に削除要請に応じる姿勢を有している。例えば、Google検索は「Google からの情報の削除」という公式サイトを用意しており、Yahoo! JAPANも「検索結果に情報を表示しないようにするには」という公式ウェブサイトを用意している。 このような自主的な削除要請が奏功しなかった場合には、司法による解決が必要となる。裁判実務も、日本における既存のプライバシー権の判断枠組みの延長で、個人情報の保護を一定程度図っている。例えば、東京地方裁判所は、2014年(平成26年)10月に、日本で初めて検索結果の削除を命じる旨の仮処分決定をGoogleに発令している。この仮処分決定では、原告の人格権侵害を理由に、たとえ検索エンジン側に人格権侵害に係る故意・過失がなかったとしても、原告は救済が受けられるとされている点で日本で初めての判断であった。 2015年(平成27年)3月に、ヤフーが、日本で検索情報の削除に応じる際の新基準を公表したことが注目された。 ヤフーの報告書には「掲載時に適法だったウェブページの情報が、一定期間の経過によって、ある時点から違法な情報になりえて、この場合には既存のプライバシー侵害の枠組みで考えることができる」という見解が示されている。 他方、掲載情報が適法な時点で、既存のプライバシー侵害の枠組みと異なる観点から、検索結果を非表示にすべきケースがあるかについては、否定的な見解が示されるとともに、今後の議論の蓄積を待つほかないと指摘されている。 2015年(平成27年)12月22日、さいたま地方裁判所は日本で初めて「忘れられる権利」を明示した判断により、エゴサーチにより過去の逮捕歴が表示される検索結果の削除を認める決定を出した。しかし、2016年(平成28年)7月12日、東京高等裁判所はさいたま地裁の決定を取り消し、「忘れられる権利」については「法的に定められたものではなく要件や効果が明確でない」とし、「忘れられる権利」に基づく申し立ては、従来の名誉毀損やプライバシー侵害に基づく申し立てと変わらず、これを他の権利から独立して判断する必要はないとした。2017年(平成29年)1月31日、最高裁判所は検索サイト「Google」の検索結果の削除を求めた仮処分申し立てに対し、削除を認めない決定をした。この最高裁判決では「忘れられる権利」が認められるかの答えは判例で示されなかったが、検索結果の削除にあたっては、書かれた事実の性質・内容、公表されることによる被害の程度、その人の社会的地位・影響力、記事などの目的・意義、掲載時の社会的状況とその後の変化、記事などでその事実を書く必要性といった要素を考慮すべきとした。 今後は、インターネット上に公開された個人情報を保護するにあたって、既存の枠組みでどこまで被害者を救済することができるのか、また「プライバシーの保護」と「表現の自由」「知る権利」を、いかなる基準の元で人権上バランスをとるのかが問題となる。
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