性的アピール
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/09 08:14 UTC 版)
少なくとも現代の都市文明社会においては、女性の乳房の存在はすぐれて性的であり、肉体の性的魅力の大きな要素をなしている。思春期の女性は乳房が思春期開始と共に発達し始めるのに対し、尻の発達し始めるのは乳房全体が膨らみ始める初経の1年前後と、乳房よりも後になる。また、性行為においては、乳房への愛撫は大きな位置を占める(ヒトの乳房、特に神経終末が集中している乳首は刺激を受けると性的興奮を得やすい)。 哺乳類であれば、乳腺は具えている。極めて原始的なグループ(現生では原獣類の一種である単孔類のみ)でもない限り、発達した乳腺と乳首を具えている。また、乳房を具える種でヒト以外のものは、妊娠中でも授乳期でもない時期にまで乳房が膨らんでいるということはない。そのようななか、妊娠中でも授乳期でもないという意味での平時にも膨らんでいる乳房をもつのは、ヒトだけである。チャールズ・ダーウィンは、メスだけに乳房が発達するのは、オスに対する性的信号を発信するためであろうと指摘した。デズモンド・モリスは述べる。多くのサル類では発情期にメスの尻が色づき、これをオスに示す行動が知られている。ヒトの祖先が直立二足歩行をするようになると、従来の前のめりな姿勢がもはや基本的なものでなくなり、加えてオス(男)の目の位置は異性の尻よりずっと高い所にまで上がってしまった。こういった変化のせいで、たわわな尻と外性器による直接的な性的アピールは、以前ほどの効果を期待できなくなった。そこで、尻に替わって異性の目線の近くでアピールできる部位として胸部をたわわに膨らませるようになったという仮説である。同様の論説でもって、めくれかえって内側の赤い粘膜を露呈させている開口部であるところの「ヒトに独特の唇」は、同じく赤みを帯びた粘膜と表皮の境目に位置する開口部である「陰唇」の代替物として発生・発達してきたとも考えられている。 乳房はオスに対してどのような信号を放っているのか。諸説あるが、メスが若くて年頃であることを乳房の形から読み取っている可能性がある。年齢を重ねに重ねたメスは乳房も下垂するが、そのように加齢した個体は、母体の安全も含めて子供を産み育てることの困難さが看過できないレベルに達しているか、妊娠できない状態になっているであろうとの判断が可能であるから、繁殖行為(性交)の相手として低価値と見なされるのは、繁殖を重大な生存目的とする「生物」としては、至極正常な判断判別ではある。 一方で、人類学者フランシス・マシア=リーズ(ラトガース大学所属)はこう反論する。大きく引き締まった乳房が「繁殖の準備ができたことや子供をたくさん産めることのアピール」であるなら「妊娠中や授乳中の乳房が最も大きくて引き締まっている」のは何ゆえかとの疑問を提示している。マシア=リーズの説によれば、ヒトの乳房が大きくなったのは自然選択の結果である。脂肪の蓄えがあれば食糧供給が不安定な初期人類にとって生存に有利に働いたに違いないとの考え方である。
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