微分方程式の解析
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/07/11 03:55 UTC 版)
「フーリエ変換の応用」の記事における「微分方程式の解析」の解説
おそらく最も重要なフーリエ変換の使用例は、偏微分方程式の解を求めることである。19世紀の数理物理学における多くの方程式は、フーリエ変換で扱うことができる。フーリエは無次元単位を用いた1次元の熱伝導方程式 ∂ 2 y ( x , t ) ∂ x 2 = ∂ y ( x , t ) ∂ t {\displaystyle {\frac {\partial ^{2}y(x,t)}{\partial x^{2}}}={\frac {\partial y(x,t)}{\partial t}}} を研究した。これより少し難しいものとして、1次元波動方程式 ∂ 2 y ( x , t ) ∂ x 2 = ∂ 2 y ( x , t ) ∂ t 2 {\displaystyle {\frac {\partial ^{2}y(x,t)}{\partial x^{2}}}={\frac {\partial ^{2}y(x,t)}{\partial t^{2}}}} がある。この方程式は無限に多くの解が存在する。ここで問題となるのは、次の「境界条件」を満たす解をみつけること、いわゆる「境界問題」である。 y ( x , 0 ) = f ( x ) , ∂ y ( x , 0 ) ∂ t = g ( x ) . {\displaystyle y(x,0)=f(x),\qquad {\frac {\partial y(x,0)}{\partial t}}=g(x).} ここで f と g は与えられた関数である。熱伝導方程式の場合、この2つの境界条件の片方だけが要求される(通常は1つ目)。しかし波動方程式の場合、1つ目の境界条件を満たす解 y はまだ無限に多く存在する。しかし両方の条件を課すと、可能な解は1つだけとなる。 この解を直接求めるよりも、解のフーリエ変換 ^y を求める方が簡単である。なぜならフーリエ変換によって微分は変数による掛け算になり、もともとの関数についての偏微分方程式は、フーリエ変換された関数についての双対変数の多項式関数による掛け算になるからである。^y が決定された後は、フーリエ逆変換によって y が得られる。 フーリエの方法は以下に示す。まず次の形をした関数は波動方程式を満たす。 cos ( 2 π ξ ( x ± t ) ) or sin ( 2 π ξ ( x ± t ) ) . {\displaystyle \cos {\bigl (}2\pi \xi (x\pm t){\bigr )}{\mbox{ or }}\sin {\bigl (}2\pi \xi (x\pm t){\bigr )}.} これらは基本解と呼ばれる。 2段階目として積分 y ( x , t ) = ∫ 0 ∞ a + ( ξ ) cos ( 2 π ξ ( x + t ) ) + a − ( ξ ) cos ( 2 π ξ ( x − t ) ) + b + ( ξ ) sin ( 2 π ξ ( x + t ) ) + b − ( ξ ) sin ( 2 π ξ ( x − t ) ) d ξ {\displaystyle y(x,t)=\int _{0}^{\infty }a_{+}(\xi )\cos {\bigl (}2\pi \xi (x+t){\bigr )}+a_{-}(\xi )\cos {\bigl (}2\pi \xi (x-t){\bigr )}+b_{+}(\xi )\sin {\bigl (}2\pi \xi (x+t){\bigr )}+b_{-}(\xi )\sin \left(2\pi \xi (x-t)\right)\,d\xi } は(任意の a+, a−, b+, b−において)波動方程式を満たす(この積分は連続的な線形結合のようなもので、方程式は線形である)。 ここで、これは関数のフーリエ合成における公式に似ている。実際これは、a± と b± の変数 x における実フーリエ逆変換である。 3段階目は、境界条件を満たす y に対応する未知の係数関数 a± と b± を得る方法を調べることである。興味があるのは t = 0 でのこれらの解の値である。よって t = 0 と置く。フーリエ反転に必要となる条件を仮定すると、両辺の(変数 x における)フーリエ正弦変換とフーリエ余弦変換が分かり、次が得られる。 2 ∫ − ∞ ∞ y ( x , 0 ) cos ( 2 π ξ x ) d x = a + + a − , {\displaystyle 2\int _{-\infty }^{\infty }y(x,0)\cos(2\pi \xi x)\,dx=a_{+}+a_{-},} 2 ∫ − ∞ ∞ y ( x , 0 ) sin ( 2 π ξ x ) d x = b + + b − . {\displaystyle 2\int _{-\infty }^{\infty }y(x,0)\sin(2\pi \xi x)\,dx=b_{+}+b_{-}.} 同様に、y を t について微分し、フーリエ正弦変換とフーリエ余弦変換をすると、次が得られる。 2 ∫ − ∞ ∞ ∂ y ( u , 0 ) ∂ t sin ( 2 π ξ x ) d x = ( 2 π ξ ) ( − a + + a − ) , {\displaystyle 2\int _{-\infty }^{\infty }{\frac {\partial y(u,0)}{\partial t}}\sin(2\pi \xi x)\,dx=(2\pi \xi )\left(-a_{+}+a_{-}\right),} 2 ∫ − ∞ ∞ ∂ y ( u , 0 ) ∂ t cos ( 2 π ξ x ) d x = ( 2 π ξ ) ( b + − b − ) . {\displaystyle 2\int _{-\infty }^{\infty }{\frac {\partial y(u,0)}{\partial t}}\cos(2\pi \xi x)\,dx=(2\pi \xi )\left(b_{+}-b_{-}\right).} 4つの未知の a± と b± についての4つの線形方程式が存在し、初等代数学によって簡単に解くことができる。 つまり ξ によってパラメータ化された基本解の組を選び、それらの一般解はパラメータ ξ についての積分の形をした(連続的な)線形結合である。しかしこの積分はフーリエ積分の形ではない。 次のステップでは、これらの積分についての境界条件を表現し、それらを与えられた関数 f と g に等しいとする。しかしこれらの表現は、導関数のフーリエ変換の性質により、フーリエ積分の形にもなる。 最後のステップは、両辺にフーリエ変換することでフーリエ反転を利用し、与えられた境界条件 f と g についての係数関数 a± と b± の表現を得る。 より高い視点から見ると、フーリエの手順はより概念的に再定式化できる。2つの変数が存在するため、空間変数でのみ行ったフーリエの方法よりはむしろ、x と t の両方でのフーリエ変換をしたほうが良い。^y は(シュワルツ)超関数の観点で考慮されなければならないことに注意。なぜなら y(x, t) は L1 にならないためである。波は時間が経過しても持続し、過渡的な現象ではない。しかしそれは拘束され、フーリエ変換は超関数として定義されうる。この方程式のフーリエ変換の演算特性は、2πiξ を掛けるために x について微分し、2πif を掛けるために t について微分する。ここで f は周波数である。こうして波動方程式は ^y についての代数方程式となる。 ξ 2 y ^ ( ξ , f ) = f 2 y ^ ( ξ , f ) . {\displaystyle \xi ^{2}{\hat {y}}(\xi ,f)=f^{2}{\hat {y}}(\xi ,f).} これは ^y(ξ, f ) = 0(ただしξ = ±f)を要求することと等価である。直ちにこれは我々が先ほど得た基本解の選択がなぜうまくいくのかを説明する。明らかに^f = δ(ξ ± f )は解である。これらのデルタ関数にフーリエ反転を適用すると、先ほど選んだ基本解を得る。しかしより高い視点から見ると、基本解を選んだのではなく、むしろ(退化した)円錐 ξ2 − f2 = 0 に台を持つ全ての超関数の空間を考慮したことになる。 直線 ξ = f上の1変数の超関数と直線 ξ = −f 上の超関数によって与えられる円錐に台を持つ超関数と考えることもできる。φがテスト関数であるとき、 ∬ y ^ ϕ ( ξ , f ) d ξ d f = ∫ s + ϕ ( ξ , ξ ) d ξ + ∫ s − ϕ ( ξ , − ξ ) d ξ , {\displaystyle \iint {\hat {y}}\phi (\xi ,f)\,d\xi \,df=\int s_{+}\phi (\xi ,\xi )\,d\xi +\int s_{-}\phi (\xi ,-\xi )\,d\xi ,} ここで s+ と s− は1変数の超関数である。 フーリエ反転によって、境界条件において上でより具体的に得たものに非常に似たものが得られる(φ(ξ, f ) = e2πi(xξ+tf )を代入し、これは明らかに多項式増大である)。 y ( x , 0 ) = ∫ { s + ( ξ ) + s − ( ξ ) } e 2 π i ξ x + 0 d ξ . {\displaystyle y(x,0)=\int {\bigl \{}s_{+}(\xi )+s_{-}(\xi ){\bigr \}}e^{2\pi i\xi x+0}\,d\xi .} また、 ∂ y ( x , 0 ) ∂ t = ∫ { s + ( ξ ) − s − ( ξ ) } 2 π i ξ e 2 π i ξ x + 0 d ξ . {\displaystyle {\frac {\partial y(x,0)}{\partial t}}=\int {\bigl \{}s_{+}(\xi )-s_{-}(\xi ){\bigr \}}2\pi i\xi e^{2\pi i\xi x+0}\,d\xi .} これまでのように、x のこれらの関数に変数 x について1変数フーリエ変換を適用すると、2つの未知の超関数 s±(これは境界条件が L1 または L2 の場合、通常の関数)についての2つの方程式が得られる。 計算の観点における欠点は、境界条件のフーリエ変換をまず計算し、これらから解を集めて作り、フーリエ逆変換を計算しなければならないことである。閉じた形式の定式化は、幾何学的な対称性が抽出できる場合を除いて稀である。積分の振動特性により収束を遅くなり、評価を難しくするため、数値的な計算は難しい。実用的な計算は、他の方法が用いられることが多い。 20世紀にはこれらの方法は多項式係数をもつ全ての線形偏微分方程式に拡張され、フーリエ変換の概念をフーリエ積分作用素に拡張することでいくつかの非線形方程式にも拡張された。
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