守り札
『黒い雨』(井伏鱒二)10 広島に原爆が投下された時、閑間(しずま)重松の家では爆風が北から南へ抜けた。庭木も家も、室内の建具も、南または南西に傾いたが、御先祖様と神札を納めた布袋だけは、南から北北西へ向け、室内を約8メートル、室外を約5メートル飛んで泉水に入り、水面に浮いていた。
『三枚のお札』(昔話) 山へ行く小僧に、和尚が3枚のお札を持たせる。小僧は山姥に捕らえられるが、「雪隠へ入る」と言って抜け出す。山姥が「まだか」と問うと、お札が小僧の代わりに返事をする。やがて山姥は小僧が逃げたことを知り、追いかける。小僧は逃げながら、残る2枚のお札を後ろに投げ、山や川を作って山姥の進路を妨げる。
『ボク東綺譚』(永井荷風)1 ある夜、「わたくし」(老作家大江匡)が古本屋で雑誌を買っていると、60歳余の男が入って来て、「バスと円タクが衝突したが、御守りが割れたおかげで無事だった」と語った。
『旅愁』(横光利一) 矢代耕一郎の父は、明治・大正期のトンネル建設の技術者だった。宇治川の水電工事に従事した時、土砂崩れで大勢が生埋めになったが、父の足もとまで来て崩れは止まり、その代わりに成田のお札が真二つに割れていた。
*銃弾が、胸ポケットの硬貨に当たったおかげで、命拾いした→〔硬貨〕2a・2b。
『雨月物語』巻之3「吉備津の釜」 妻磯良の死霊に襲われた正太郎に、陰陽師が「この霊は7日前に死んだものゆえ、あと42日、物忌みせよ」と教える。正太郎は、朱文字を記した護符を門や窓に貼り、一室にこもる。夜になると、磯良の死霊が来て家を巡り、屋根の上で怒り叫ぶが、中へは入れぬまま、42日が過ぎる→〔時間〕8。
★3b.霊の侵入を防ぐ守り札をはがす。
『諸国百物語』第47話 墓所の土饅頭から、鍛冶屋の女房の幽霊が現れて、男に訴える。「私は隣家の女に毒を盛られて殺された。隣家の女は、我が夫の後妻になった。恨みを晴らしたいが、二月堂の牛王(ごおう)の札が門に貼ってあるので、家へ入れない。お札をはがしてもらいたい」。男は鍛冶屋の家へ行き、お札をはがす。女房の幽霊は鍛冶屋夫婦の首を取り、礼として小判10枚を男に与える。男はその金で、幽霊の供養をする。
*幽霊が人間に百両与え、お札はがしを依頼する→〔霊〕5の『怪談牡丹灯籠』(三遊亭円朝)。
★4.お守り紐。
『女神のお守り』(アイヌの昔話) 嫁入りが近づくと、神の娘もアイヌの娘も、貞操を守る紐ラウンクッを編む。このお守り紐は素肌に巻きつけ、夫以外の男に見せたりさわらせたりすると、その女は一生不幸になる。人目にふれない所で、色糸を用いずに編むならわしだったが、下の天を司る神の娘が、上の天を守る神の息子に嫁入る時、禁制を破って、7色の糸でラウンクッを編んだ→〔口〕6d。
『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』第5話 免罪符売りが村人たちに免罪符を頒布しようとすると、警吏が「その免罪符は偽物だ」と非難する。免罪符売りは「あの警吏に天罰を与え給え」と神に祈り、警吏は泡をふいて倒れる。実は、免罪符売りと警吏は仲間どうしであった。免罪符を頭の上に置かれて警吏は回復し、これを芝居とは知らぬ善男善女は、こぞって免罪符を買い求めた。
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