大衆的フィクションとしてのスチームパンク
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「スチームパンク」の記事における「大衆的フィクションとしてのスチームパンク」の解説
1982年のアメリカのテレビドラマ Q.E.D. はエドワード朝のイングランドを舞台とし、サム・ウォーターストン演じる教授が主人公である。この教授は発明家で、科学を用いたシャーロック・ホームズのような探偵ものになっている。 1988年に初版が登場した歴史改変SFロールプレイングゲーム Space: 1889 ではヴィクトリア朝時代の後に否定された科学理論が真実となっている世界を舞台とし、現実世界とは異なる科学技術が発展したという設定である。 ウィリアム・ギブスンとブルース・スターリングの1990年の小説『ディファレンス・エンジン』は、スチームパンクを広く知らしめた作品としてよく引き合いに出される。この小説はギブスンとスターリングのサイバーパンクの作法を歴史改変的ヴィクトリア朝に適用したもので、エイダ・ラブレスとチャールズ・バベッジが考えた階差機関(ディファレンス・エンジン)と呼ぶ蒸気機関駆動のコンピュータが実際に作られ、現実よりも1世紀以上早く情報化時代が到来した世界を描いている。ただし多くのスチームパンク作品が楽天的でユートピア的なのに対して、この作品は暗く懐疑的である。日本語訳書のアオリから引くならば「サイバーパンクの教祖と煽動者が紡ぐ記念碑的傑作」とされ、著者の一方であるスターリングは同作について「きわめてサイバーパンク的でもある」と明言している。このため当初は「サイバーパンク側からのスチームパンクに対する一種の返答(カウンター)的な作品」と受け止められた。現在では「現代科学を参照した蒸気ガジェットや世界観に溢れるスチームパンク」として、スチームパンクの主要な作品と扱われることもある。SF評論家の巽孝之は同作に寄せた解説で「サイバーパンク史上にもスチームパンク史上にも残る」としている。 フォックスが1993年から1994年に放送したテレビドラマ The Adventures of Brisco County, Jr は1890年代を舞台とし、登場人物であるウィックワイア教授が様々なものを発明する。アラン・ムーアとケヴィン・オニールのグラフィックノベルシリーズ『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』(1999) (および2003年製作の映画版)もスチームパンクを広めることに大きく貢献した。 Nick Gevers の2008年のアンソロジー Extraordinary Engines は、このジャンルの優秀な作家や他のSF作家、ファンタジー作家がネオ・ヴィクトリア朝を舞台として書いた新たなスチームパンク作品を集めている。その序文でスチームパンクの先駆けとして、マイケル・ムアコックの The Dancer at the End of Time と A Nomad of the Time Streems、ブライアン・オールディスの Frankenstein Unbound、ハワード・ウォルドロップとスティーヴン・アトリーによる Custer's Last Jump と Black as the Pitが挙げられている。同年、ジェフ・ヴァンダーミア(英語版)らによるその名もずばり Steampunk と題したアンソロジーも出版された。この両方に作品が収録されているジェイ・レイク(英語版)の代表作 Mainspring は「クロックパンク」と呼ばれることもある。後者のアンソロジーには他に、スチームパンク作家とされているジェイムズ・P・ブレイロックの作品、先述したマイケル・ムアコックの作品、『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』への注釈で知られているジェス・ネヴィンズ(英語版)の作品なども収録されている。 初期のスチームパンクは歴史上の設定があることが多かったが、その後スチームパンクの要素をファンタジー世界に持ち込んだ、どの時代かも定かでない作品が見られるようになる。前者の歴史的スチームパンクは歴史改変SF的要素があり、歴史上の実在の場所や人物が登場しつつ、架空のテクノロジーが登場する。ファンタジー的スチームパンクとしては、チャイナ・ミエヴィルの『ペルディード・ストリート・ステーション』、アラン・キャンベル(英語版)の Scar Night などがあり、さらに完全なファンタジー世界で伝説のモンスターなどと蒸気機関時代などの時代錯誤的テクノロジーが共存している作品もある。 自ら "far-fetched fiction"(ありそうもないフィクション)作家を名乗るロバート・ランキン(英語版)は、スチームパンク要素を作品に取り入れるようになっている。2009年にはヴィクトリアン・スチームパンク協会のフェローに選ばれた。
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