地球化学・水文学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 08:28 UTC 版)
「宏観異常現象#ラドン濃度」および「宏観異常現象#大気イオン濃度」を参照 古くは1950年代に、日本で土壌中の気体や大気中のラドン濃度と地震の関係に関する論文が報告されている。1966年にソ連のウズベク共和国(現在のウズベキスタン)タシュケントで起きたM5.5の地震では地下水中のラドン濃度の変化が報告されたが、そのメカニズムを示す仮説がショルツら(Scholz et al.,1973)のダイレイタンシー水拡散モデルで示されたことで研究が活発化し、1975年の中国・海城地震でも地震の前兆例として報告されている。しかし、茂木(1982)などの指摘によりダイレイタンシー水拡散モデルは疑問視されるようになり、研究は下火になっている。 その後、疑問視されたダイレイタンシー水拡散モデルに代わって、地殻の歪みと地下水の関係が注目されるようになった。上下を帯水層に挟まれた層に保持されている「被圧地下水」は地球潮汐に伴う水位変化や噴出量変化を起こすことが知られているが、このメカニズムが地震の時にも起こるという仮説をもとに地震の前兆としての地下水の水位や水温の変化が研究され、1974年伊豆半島沖地震(Wakita,1975)、1923年関東地震や1946年南海地震(川辺、1991)において仮説により説明できる変化があったと報告されている。しかし、地震の際にも変化を示さない地下水も少なくなく、この仮説に対する疑問も呈されている。 一方、岩石中に亀裂があると岩石と地下ガスや地下水との物質のやりとりが促進されるという仮説をもとに、地震の前兆としてこれらの濃度変化が研究された。1965年に始まった松代群発地震では地下水質の変化が観測され、逆に高圧地下水が岩盤の亀裂に貫入することで地震を誘発したとする説も出されている(中村、1971)。研究の対象は主にラドンのほか、水素・ヘリウム・アルゴンなどの希ガス、メタン、二酸化炭素などで、濃度や同位体比の変化が取り上げられている。 井戸や温泉などの変化の報告もある。1923年関東地震の前に、熱海温泉の間欠泉で湧出変化があったことが詳細に記録されている。熱海駅前の「大湯」の間欠泉では駅前交番の警官によりその様子が記録されており、地震前年に活動が低下し12月には湧出を停止してしまった。これを重く見た行政が温泉の取水制限を課したところ、翌年5月頃から湧出が復活した。その後地震前日の8月31日に急に活動が活発化し、40分以上続く噴出もあったという。1933年昭和三陸地震では、地震の前に三陸沿岸の各地で井戸の枯渇があったことが報告されている。1946年南海地震では、四国や紀伊半島の沿岸で井戸の枯渇や水位低下があったことが報告されている。脇田(2001)によれば、こうした事例は地震の1週間前から前日のものが多い一方、いつも同じ井戸ではなく地震ごとに異なる井戸で起こることも多いという。 兵庫県南部地震でも、事後に地震に先駆けた地下水や温泉水の水位、水圧、温度、組成の変化があったことが報告されている。
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