地殻変動の監視
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/01 17:08 UTC 版)
電子基準点で観測されたデータは、一部を除き常時接続回線を通じて、リアルタイムで国土地理院に収集されている。集積されたデータを用いて定常解析を行い、各電子基準点の座標値および対流圏遅延の値を推定している。国土地理院が行う定常解析結果は、解析の実行スケジュール、使用する解析データの期間および衛星軌道情報(精密暦)により迅速解(Q)・速報解(R)・最終解(F)の3 種類がある。このうち速報解と最終解は日々の座標値として国土地理院HPから提供されている。2020年から次世代解析戦略「解析ストラテジ(第5版)」を試験公開、2021年からF5解・R5解として正式運用を開始した。 日本列島は4つのプレートの境界に位置していることから、地震や火山活動が活発で地殻変動も顕著である。日々、座標値を分析することで、これまでに様々な地象を観測してきた。GPSによる連続観測を始めた初期の1990年代前半に発生した北海道東方沖地震・三陸はるか沖地震・兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)において、断層運動による地殻変動を明瞭に捉えたことで、地震学や地球物理学において衛星測位技術とその連続観測の意義を見いだした。2011年の東北地方太平洋沖地震では、宮城県石巻市の牡鹿半島の電子基準点で地震時に5m以上の変動が観測された。東北地方太平洋沖地震の余効変動は地震から10年以上経過した2021年現在も継続していることが電子基準点の日々の座標値によって明らかになっている。これらの功績により、GEONETは2019年に地震学会による技術開発賞を受賞した。 日々の座標値は地殻変動の把握に役に立っているが、実際に地殻変動が起きていないにもかかわらず、座標値が変化して地殻変動と誤認されることもある。前線の通過や大雪といった気象の変化、上空の電離層の擾乱、周辺樹木による電波の受信障害、地下水のくみ上げ等による観測点固有のローカルな変動、アンテナ交換等に伴う人為的なオフセット等、様々な原因によるノイズが含まれている。また、解析上の問題で座標値の飛びも時々発生するとされる。そのため、地殻変動のような実際に起こっている微小なシグナルを捉えるためには、座標値は2点間の相対的な位置関係(基線ベクトル)で比較し、保守情報や周辺環境の状態を調べるなど、細心の注意が必要であると国土地理院は呼びかけている。 前述の通り、日本列島は複雑な地殻変動が起こっているため、実際の地球上の位置と測量成果の示す座標値が時間とともにずれてくる。また地震による局所的な地殻変動が発生することよって測量成果値との差が生じる。そこで国土地理院では、セミダイナミック補正や定常時地殻変動補正などの各種地殻変動補正パラメータを公開している。現在の座標値(今期座標)と国家座標である測量成果(元期座標)との整合性を取るためのこれらのパラメータの作成に電子基準点の日々の座標値が使われている。 また、国土地理院は電子基準点のリアルタイムデータを用いて地震による地殻変動量を即座に解析し、震源断層モデルを発震後数分で推定する手法を開発している。推定された断層モデルは関係機関と共有され、津波予測支援に使用される。
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