吐山スズラン群落とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 文化 > 文化財選集 > 吐山スズラン群落の意味・解説 

吐山スズラン群落 (奈良県)

名称
吐山スズラン群落
区分
天然記念物
所在地
奈良県山辺郡都祁村


資料一覧
解説
スズラン山地高原生え多年生草本で,わが国では主に本州中部以北から北海道にかけて分布している。この地域大きな群落成立している分布の南限地帯として貴重であるため,天然記念物指定された。生育地標高500~600mであるが,夏季でも気温冷涼でありるため,自生していたと考えられている。近く室生村にも同様の指定地がある。なお,一般に栽培されているものは近縁種のドイツスズランが多い。



吐山スズラン群落

名称: 吐山スズラン群落
ふりがな はやますずらんぐんらく
種別 天然記念物
種別2:
都道府県 奈良県
市区町村 奈良市
管理団体 奈良市(昭6・313)
指定年月日 1930.11.19(昭和5.11.19)
指定基準 10
特別指定年月日
追加指定年月日
解説文: スズラン山地高原生え多年生草本で,わが国では主に本州中部以北から北海道にかけて分布している。この地域大きな群落成立している分布の南限地帯として貴重であるため,天然記念物指定された。生育地標高500~600mであるが,夏季でも気温冷涼でありるため,自生していたと考えられている。近く室生村にも同様の指定地がある。なお,一般に栽培されているものは近縁種のドイツスズランが多い。


くぬぎ、こなら等ノ雜生セル山林ニアリすずらん自生南限地帶ニ於ケル群落トシテ代表的ナリ

吐山スズラン群落

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/25 22:26 UTC 版)

吐山スズラン群落。小さなつぼみ。2023年5月10日撮影。

吐山スズラン群落(はやまスズランぐんらく)は、奈良県奈良市都祁吐山町にある国の天然記念物に指定されたスズラン群生地である[1][2][3]

スズラン(鈴蘭、学名: Convallaria majalis var. manshurica)は、スズラン亜科スズラン属に属する多年草の一種であるが、世界各地に数種類の変種があり、園芸品種として花屋ガーデニングなどでよく見かけるものはヨーロッパ原産のドイツスズラン(C. m. var. majalis)である。それに対し本記事で解説する群生地のスズランは、日本に自生する在来種の Convallaria majalis var. keiskei である(以下記述するスズランは日本在来種を指す)。日本の山野でよく見かける在来種のスズランは同種のみであり、本州中部地方以北の東北地方北海道では普遍的に自生しており決して珍しいものではないが[4]、夏は冷涼でやや乾燥した気候を好むため、温暖かつ多湿な西日本での自生地は少ない[5]

奈良県東北部の大和高原一帯は、日本国内におけるスズラン自生地の南限のひとつで、本記事で解説する吐山スズラン群落(奈良市都祁吐山地区)と、東北側に隣接する向淵(むこうじ)スズラン群落宇陀市室生向渕地区)は、自生分布南限における比較的規模の大きな群生地であり、指定基準10「著しい植物分布の限界地」として、吐山と向淵の2物件それぞれが、1930年昭和5年)11月19日に国の天然記念物に指定された[1][2][6]。例年5月中旬から6月にかけて開花する[5][7]

解説

吐山
スズラン
群落
吐山スズラン群落の位置
吐山スズラン群落の2地点(オクカイトとヤナクボ)を示した昭和10年代の地形図。
吐山城跡北側のスズラン自生地を示した昭和20年代の地形図。
奈良県教育委員会作成資料(昭和18年・昭和27年)に添付された地形図の一部
吐山スズラン群落周辺の空中写真。国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成。2011年10月9日撮影の3枚を合成作成。

吐山スズラン群落のある奈良市都祁吐山町は、2005年平成17年)に奈良市へ編入されるまでは山辺郡都祁村であった所で[† 1]、奈良県北東部に広がる大和高原南部の一角に所在する。

吐山スズラン群落の指定地は、吐山(はやま)地区を南北に縦断する国道369号の香酔峠(こうずいとうげ)の北側、国道沿いから農道を南西方向へ800メートルほど登った、スギ植林地の広がる標高約550から600メートルの傾斜地にあり[2]、南側の宇陀市との境界にある香酔山(標高795メートル)の北面に位置している。ここから北東側に5キロメートル程の場所にある、同じく国の天然記念物に指定された向淵スズラン群落(宇陀市室生向渕)と同日の、1930年昭和5年)11月19日に国の天然記念物に指定された[1][2][6][8]

1943年(昭和18年)に『大和の名勝と天然記念物』を著した植物学者の小清水卓二は、同書のなかで吐山スズラン群落の解説に1/50,000地形図を添付しており[9]、それによれば吐山地区の小字オクカイト(オクイトとも)、小字ヤナクボの2地点が[10]、吐山スズラン群落の所在地として記載されているが、このうち見学のための遊歩道などが整備されているのはオクカイト(オクイト)と呼ばれる地点である。小清水の調査によれば、当地一帯(旧都介野村)のスズランは、吐山地区の北西に隣接する同村の相河(そうご)地区から以東および以南の安山岩風化土壌の上部を被う腐植土の上に局限して自生し[8]、おおむね北面の傾斜地と平地に分布しており[6]、腐植土の深さは平均20から30センチメートルで透水性に富み、スズランの生育に適している[11][12]

その後の調査により吐山地区周辺では指定地以外にも複数のスズラン群落が確認され[10][13]、特に指定地から北東北へ2キロメートルほどの位置にある山城の、吐山城跡北側山腹に大規模な自生地が確認されている[12]

スズランは落葉樹林下に下草のように生育し、多少の太陽光線を必要とするが、1930年(昭和5年)の天然記念物指定後、指定地ではスズラン以外の樹木の伐採や現状変更が制限されたため、スズラン群落の上部を被うクヌギコナラなどの林冠が繁茂し日光が遮られた結果、スズランが高木の少ない指定地外へ分布移動し、ついに指定地内の一部ではスズランの生育が見られなくなってしまった[14]。やむをえず指定地内の一部の林冠部を伐採したところ、再びスズランの群落が復活、再生した経緯があり、小清水は「生物の保存には斯の如き點を頗る考慮する必要があると痛感した」と述べている[14]

当地のスズランは、ノダケノブキワラビチガヤノギランなどと混在して生育しており[11]、1平方メートルあたりの株数は平均70から100株で[14]、最も多い場所では350株を数える[2][6][8][14]

大和高原の一角に所在する吐山地区は周辺と比較して平均気温が低く、太平洋戦争終戦後しばらくの間までは冬季に凍り豆腐寒天の製造が露天で行われていたほどで[2]、夏季も比較的冷涼であり、スズランの生育に適した気象条件を備えている[5]

一方で隣接する向淵スズラン群落と同様に、水田緑肥として周囲の下草の使用が激減したため、下草狩りが行われないようになり、落葉広葉樹林もスギヒノキ植林地に転換され、スズランの生育環境は悪化している[2]。また、一時期スズランの盗採なども増加したため地元自治体では指定地の周囲に防護柵を設けたり、地元有志らによる上層木の枝打ちや下草狩りなどが行われ、スズラン群落の保護育成に努めている[2]

ただ、2000年代以降、開花するスズランは減少傾向にあるとされ、日照の低下や多雨などの環境の変化、鹿などの食害、土中に含まれる栄養分の不足などが影響していると分析されている[15]

交通アクセス

所在地
  • 奈良県奈良市都祁吐山町
交通

脚注

注釈

  1. ^ 天然記念物指定当時の村名は同県同郡都介野村

出典

  1. ^ a b c 吐山スズラン群落(国指定文化財等データベース) 文化庁ウェブサイト、2023年9月18日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h 菅沼 1995, p. 566.
  3. ^ 青山 1984, p. 212.
  4. ^ 小清水 1943, p. 97.
  5. ^ a b c 菅沼 1995, p. 564.
  6. ^ a b c d 文化庁文化財保護部監修 1971, p. 190.
  7. ^ a b c 「天然記念物 吐山スズラン群落」のスズランの開花 奈良市役所文化財課 2023年9月18日閲覧。
  8. ^ a b c 本田 1957, p. 334.
  9. ^ 小清水 1943, p. 100.
  10. ^ a b 室生村 1966, p. 878.
  11. ^ a b 小清水 1943, p. 99.
  12. ^ a b 小清水・菅沼 1952, p. 183.
  13. ^ 小清水・菅沼 1952, pp. 179–183.
  14. ^ a b c d 小清水 1943, p. 101.
  15. ^ 奈良県「吐山スズラン群落」が危機 環境変化か開花数減少 奈良市に保全求む声”. 奈良新聞 (2024年3月26日). 2024年3月26日閲覧。

参考文献・資料

関連項目

外部リンク

座標: 北緯34度33分43.0秒 東経135度57分21.5秒 / 北緯34.561944度 東経135.955972度 / 34.561944; 135.955972



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「吐山スズラン群落」の関連用語

吐山スズラン群落のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



吐山スズラン群落のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
文化庁文化庁
Copyright © 2025 The Agency for Cultural Affairs. All rights reserved.
文化庁文化庁
Copyright (c) 1997-2025 The Agency for Cultural Affairs, All Rights Reserved.
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの吐山スズラン群落 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS