取材対象者の人権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/09 02:44 UTC 版)
メディアの取材により、取材対象者の名誉、プライバシー、肖像権などの権利が侵害されることがある。近代法に基づく刑事手続では、無罪推定の原則、公正な裁判を受ける権利が保障されているが、犯罪報道においても、刑事裁判の判決で罪の有無の判断を受けるまで無罪として扱われるべきである。 報道によって、伝えられた人の名誉やプライバシーが毀損されることを、日本では「報道被害」と呼ぶこともある。報道による人権侵害に詳しい弁護士の梓澤和幸は、報道による人権侵害が相次ぐ原因について、誰が捜査線上にあるのか、大事件や大事故の被害者の表情を一刻も早く読者、視聴者に伝えようという、メディア企業間の取材競争で「他より早く」という意識が、正確さよりも優先されていること、取材する側とされる側では、取材する側に「公権力」と同じほど圧倒的な力があること、報道機関が犯罪報道の情報源を警察に依存していること、メディアの経営者に、報道の公共性より商業主義を優先させる思想があり、取材者の人権意識が問題であることを指摘している。 報道による人権侵害が発生したり、発生しそうだと予測される場合、報道機関と交渉を行い、事実関係の調査を積み上げた上で相手に示し、訂正報道や謝罪、取材対象者の反論を求めることは、被害回復の有力な手段となる。報道機関との交渉で解決しない場合は、訴訟や公表差止めの仮処分申請など、法的な手段で問題解決が行われる! 犯罪報道 詳細は「犯罪報道」および「メディアスクラム」を参照 社会的に注目を集める事件や犯罪の報道では、マスメディアは、無罪推定の原則に基づいて報道しなければならない。また、大きな事件、事故の関係者に大勢のメディアが殺到するメディアスクラム(集団的過熱取材)は、関係者のプライバシーを侵害する可能性が高いために配慮し、当事者を取り囲んで取材すべきではない。 日本の犯罪報道では、被疑者や被害者の氏名は原則実名で報道されている。犯罪報道で、実名による報道が行われることで、取材の正確性が増すという考えから実名報道を支持する意見。と、実名にすることで、被疑者を犯人扱いし、回復不能な社会的制裁を与えるとして、匿名報道されるべきだとする意見がある。また、被疑者、被害者の実名・匿名は世界各国で対応が分かれる。また、少年犯罪の被疑者の特定や、被疑者の前科の暴露はすべきではない。 犯罪の被疑者の人権が、報道で問題とされるとともに、犯罪被害者で作る「全国犯罪被害者の会」によると、取材攻勢による被害者が苦痛を受けることや事実と異なる報道が事実として認知されることで、被害者が精神的苦痛を受けている、等の二次被害を受けていると指摘する。地下鉄サリン事件の被害者遺族である高橋シズヱは、犯罪被害者への取材、報道がスムーズに行われるためには、節度ある取材や相互の信頼関係構築が重要であるとしている。 名誉毀損とプライバシー 詳細は「名誉毀損」および「プライバシー」を参照 私人は、プライバシーの権利を持つが、公共の利害に関わる事実であれば、報道が許される。政治家などの「公人」に認められるプライバシーは私人より少ない。
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