参考にされた先駆者
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/14 14:21 UTC 版)
ハーマン・メルヴィルの『白鯨』は、最も注目すべき『ジョーズ』の前身となる作品である。クイントの性格は、マッコウクジラ漁に人生を捧げるピークォド号(英語版)のエイハブ船長(英語版)に強く似ている。クイントの独白は、サメに対する同様の執着心を明らかにしており、オルカ号(シャチの意)という名前も、ホオジロザメの唯一の天敵にちなんで名付けられている。原作と初期脚本ではクイントの最期はエイハブの最期と同様に、彼の足に絡んだ銛のロープによって海中に引きずり込まれるというものである。こうした直接的な引用を示すシーンは、クイントが映画版『白鯨』を観ているなど、スピルバーグによるドラフト版の脚本にはあった。しかし『白鯨』のシーンの流用は銀幕スターで、『白鯨』の著作権を保有していたグレゴリー・ペックから許可を得られなかった。ゴットリーブは「ジョーズは…… メルヴィルやヘミングウェイのような巨大な闘争だ」と述べ、アーネスト・ヘミングウェイの『老人と海』との類似点についても言及している。 サメの視点から撮影された水中シーンは1950年代の2つのホラー映画『大アマゾンの半魚人』と『大怪獣出現(英語版)』の一節と比較される。また、ゴットリーブはサメをどのように描写するか、あるいは描写しないかについてそれと同じ50年代の2つのSF作品に影響を受けたことを明かしている。1つは『遊星よりの物体X』であり、ゴットリーブは「最後のリールでしか怪物を見ることができない素晴らしいホラー映画」と述べている。もう1つは『それは外宇宙からやってきた(英語版)』であり、「怪物は常に画面外におり、それゆえにサスペンスに仕上げっていた」と言う。こうした先例はスピルバーグとゴットリーブが「サメ自体ではなく、サメの『効果』を見せることに集中する」のに役立った。トーマス・シャッツなどの学者は、『ジョーズ』が本来はアクション・スリラー映画であるにも関わらず、様々なジャンルを融合させていると説明している。大部分はホラー映画を参照しつつ、自然を基本において怪獣映画の核心を持ち、スラッシャー映画の要素も加えている。後半はオルカ号の乗組員同士の交流を描いたバディ映画であり、サメをほぼ悪魔的な脅威に見立てての描写は怪奇ホラー映画である。イアン・フリーアは本作を水棲怪獣映画と表現し、『キングコング』や『ゴジラ』といった初期の怪獣映画からの影響を見ている。1977年にはチャールズ・デリーも本作を『ゴジラ』と比較している。実際にスピルバーグは、子供の頃に影響を受けた作品として『怪獣王ゴジラ』(1956年)を挙げており、その理由として「ゴジラが実際に存在していると信じさせた」という「天才的な」手法に言及している。 ニール・シンヤードなどの批評家は、ヘンリック・イプセンの戯曲『民衆の敵』との類似性を述べている。ゴットリーブは、彼とスピルバーグが本作のことを「モビィ・ディックが民衆の敵と出会う」と呼んでいたと述べている。『民衆の敵』は、温泉が湧いた海辺の町において、観光資源にしようとする住民たちと対峙する、源泉が汚染されていることに気がついた医師を主人公としている。医者は住民たちに危険性を説明しようとするが、職を失い、迫害を受ける。このプロットは『ジョーズ』において、町の観光業にダメージのあるサメの存在を認めることを拒絶する市長とブロディの対立を彷彿とさせる。そして昼間の衆人環視の中で再びサメの襲撃が発生した時、ブロディの主張が認められる。シンヤードは本作を「ウォーターゲートとイプセンの演劇を完璧に組み合わせた」と評している。
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