水棲
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/02 02:24 UTC 版)
同位体解析や骨組織のような技術を用いた研究から示されるように、多くのスピノサウルス科は半水棲であった可能性が高い。彼らがおそらく水棲の獲物や環境(沿岸生息域)といったアドバンテージを得て明確な生態的地位を占め、より陸棲の獣脚類との競争を避けていたことが判明している。スピノサウルス亜科はバリオニクス亜科よりもそのような生態に適していたらしい。イギリスの古生物学者トーマス・M・S・アーデンらによる2018年の研究では、水棲の特徴を探るためスピノサウルス亜科の形態が調査された。イリタトル、スピノサウルス、シギルマッササウルスの前頭骨がアーチ状で最上部が窪み、前部で狭くなっていることを彼らは発見した。これらの特徴は目が他の獣脚類よりも上に位置していたことに帰着する。特に、大半の獣脚類では眼窩は側方に面していた一方、イリタトルは広い下顎と狭い前頭骨により頭蓋骨の正中線に眼窩が急勾配で面した。これらの特徴により、イリタトルは水に浸かっても水面より上を見ることができた。 2018年、オーレリアノらはロムアルド累層の腸骨断片に解析を行った。サンカルロス大学(英語版)での標本のCTスキャンにより、骨硬化の存在が明らかにされた。この状態はかつて Spinosaurus aegyptiacus でも観察され、骨を重くして水に浸かるのを楽にしたのかもしれないとされた。この状態がブラジルの脚断片にも見られたことは、少なくともスピノサウルスが1億年前のエジプトに出現した頃にはコンパクトな骨が既にスピノサウルス亜科で進化していたことを示している。近縁種との比較により生命体の未知の特徴を推定するのに用いられる手法 phylogenetic bracketingによると、骨硬化はスピノサウルス亜科では標準的なものであった。これらの特徴の重要性は2018年の後の論文で疑問視され、カナダの古生物学者ドナルド・ヘンダーソンは同論文で骨硬化は獣脚類の浮力に大幅に影響しなかっただろうと異議を唱えた。
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水棲
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 21:14 UTC 版)
2010年の Romain Amiot らによる同位体分析では、スピノサウルスを含むスピノサウルス科の歯の酸素同位体比から、彼らが半水棲の生態であったことが示唆された。歯のエナメル質やスピノサウルスの他の部位(モロッコとチュニジアで発見)およびカルカロドントサウルスなどの同地域の捕食動物の同位体比が同時代の樹脚類・ワニ・カメの同位体比と比較され、スピノサウルスの同位体比はカルカロドントサウルスと比較してカメやワニに近いことが示された。このことから、スピノサウルスは大型獣脚類や大型ワニとの競合を避けて水陸を移動していたのではないかと考えられた。 しかし、2018年のドナルド・ヘンダーソンによる研究では、スピノサウルスは半水棲とされた。ヘンダーソンはワニの肺の浮力を研究し、肺の位置をスピノサウルスのものと比較した。この結果、スピノサウルスは水中への潜航や沈降が不可能であったことが示唆された。また、他の非水棲獣脚類と同様に、頭部全体を水面上に浮かせていることが分かった。さらにコンピュータシミュレーションによると、頭が重くスリムな体型をしていたため、後肢を漕がなければ横倒しになってしまうこと判明した。そこでヘンダーソンは、スピノサウルスは既存の説のように完全に水に浸かって狩りをしていたわけではなく、大半の時間を陸上や浅い水中で過ごしていたのではないかと考えた。 ただし、浮力が強すぎて沈むことができなかったとするヘンダーソンの説も、2020年に発表されたイブラヒムらによる尾椎の研究で反論されている。2018年に収集されたこの尾椎からは、スピノサウルスがキール状の尾を持ち、推進力の獲得へ適応していたことが示されている。また、背側と腹側の両方で尾の先端まで続く細長い神経棘と血道弓からは、現生のワニと同様の遊泳能力が示唆される。ラウダーとピアースによる実験の結果、スピノサウルスの尾はコエロフィシスやアロサウルスなどの陸生獣脚類の尾の8倍の推進力があり、推進効率も2倍以上であることが判明した。この発見は、スピノサウルスが現生のワニやクロコダイルに類似する生態で、狩りの際には長時間水中に留まっていた可能性を示唆している。 しかし2021年1月にデイヴィッド・ホーンとトーマス・R・ホルツ・ジュニアは、スピノサウルスの解剖学的特徴は、イブラヒムらの主張する活発な水棲捕食動物ではなく、海岸線や浅い水域の動物を捕食していた場合に矛盾しないと発表した。この根拠としては、スピノサウルスの眼窩と外鼻孔が比較的腹側に位置しているため呼吸する際に顔を全て水面から出す必要があり非効率的であること、帆が水の抵抗を受けること、体幹が硬直していて尾にも筋肉が多く付随していないように見られることが挙げられた。また、生まれる前の恐竜は卵が水没すると溺れてしまうため、少なくとも産卵は陸上で行っていたことになるとも指摘している。 ポール・セレノらはS. aegyptiacusの化石を元に骨格モデルを作成し、さらに骨格内部の空気と筋肉を加えて可動式の肉質モデルを作成し、スピノサウルスの行動を検証した。その結果、スピノサウルスは陸上を二足歩行しており、深い水深では浮力が大きすぎて潜水が出来ず、また表層での遊泳も不安定で1m/s以下の速度であることが判明した。現生の爬虫類の帆が水中での推進ではなくディスプレイに用いられていること、および二次的に水棲適応を遂げた動物の多くは四肢が小型化して肉厚の尾鰭を持つことが指摘されており、スピノサウルスは沿岸や川辺を往来する半水棲の二足歩行動物として扱われている。この研究は2022年5月に査読前論文として公開された。
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