初の国外遠征
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第11飛行隊として発足した翌年の1996年(平成8年)、アメリカ空軍からブルーインパルスへ、アメリカ空軍創設50周年を記念してネバダ州のネリス空軍基地において行なわれる航空ショーである「ゴールデン・エア・タトゥー」 (GOLDEN AIR TATTOO) での展示飛行の招請があった。これに対して検討を行なった結果、1億数千万円を投じて、ブルーインパルス史上初となる国外への展開が決定した。 しかし、アメリカでは観客の方向に向かって飛ぶことは禁じられており、高度制限もアメリカの方が厳しい など、日本とアメリカでは展示飛行の基準が異なっていた。アメリカ連邦航空局 (FAA)の係官が来日し、松島基地でアクロバット飛行の内容をチェックし、さまざまな懸案が指摘された。これに伴い、課目についても進行方向を変えたりするなど、部分的な変更を迫られた。 ブルーインパルスが運用するT-4には太平洋を横断するだけの飛行能力はなく、輸送船に船積みした上で海上輸送することになり、1997年(平成9年)3月4日からアメリカ本土への移動が開始された。まず陸上自衛隊の木更津駐屯地まで機体と機材を輸送し、そこで輸送船にクレーンで船積みされ、同年3月10日に木更津港を出港した。パイロットが渡米するまでは訓練に使用できる機材がない ため、第1航空団と第4航空団の教育集団から通常仕様のT-4をリースして訓練を行なった。なお、通常仕様のT-4ではバードストライク対策のキャノピー強化が施されていないため、訓練は通常より高い高度で行なわれた。 機体は同1997年3月28日にカリフォルニア州サンディエゴのノースアイランド海軍航空基地に到着。同年3月26日に成田を出発した整備員が受領し、整備が行われた。パイロットは4月5日に松島基地を出発し、4月6日に成田から出発、現地で整備員と合流し、4月10日にネリス空軍基地へ向かった。ネリス空軍基地ではサンダーバーズが使用する空域を使用した訓練が行なわれた。ネリス空軍基地は近隣にラスベガス・マッカラン国際空港があるため、訓練には40マイル北にあるインディアンスプリングス飛行場も使用した。ネリス空軍基地は標高が高いことから気圧が低く、空気密度が低いためエンジンのパワーが落ち、編隊を組むのも容易ではなかったという。また、砂漠での訓練飛行は地上目標物が少なく苦労したという。 「ゴールデン・エア・タトゥー」は同1997年4月25日・26日に開催された。アメリカ空軍のサンダーバーズのほか、カナダ空軍からはスノーバーズ、ブラジル空軍からはエスカドリラ・ダ・フマサ、チリ空軍からはアルコネス、そして日本からブルーインパルスと、5カ国のアクロバット飛行チームが競演することになった。アメリカ空軍ではこれ以外にも、イギリス・イタリア・ロシア・フランスのアクロバット飛行チームにも招待状を送っていた が、渡米費の捻出ができずに参加を断念している。ただし、イギリス空軍とオーストラリア空軍は戦闘機の展示として参加した。 低騒音であることがアメリカ人には物足りなかったらしく、サンダーバーズのような迫力はなかった ものの、正確で緻密なパフォーマンス、日本とは全く異なる環境であるにもかかわらずトラブルのなかったブルーインパルスの整備・支援体制は、参加した軍関係者からも高い評価を得られた。「チェンジ・オーバー・ターン」という課目を見たサンダーバーズのパイロットは正確な機動に賛辞を惜しまず、南米のチームのパイロットも "Precise!" (正確だ!)と驚嘆したという。この時に披露された課目のうち、ブルーインパルスのオリジナル課目である「スター&クロス」については、最初のうちは5機がバラバラの方向にスモークを引いているようにしか見えず、ほとんどの観客は意図が分からなかったという。しかし、スモークが伸びるにつれ、会場にいた子供の「スター!」という声があちこちから聞こえだした。アメリカ空軍のみならず、アメリカ合衆国そのものの象徴でもある星 が空中に描かれると、観客からは絶賛されたという。この「スター・クロス」は、アメリカ人の観客からはアメリカ空軍50周年を記念したスペシャル課目と思われていたと推測されている。 会期終了後、同1997年4月28日にネリス空軍基地からノースアイランド海軍航空基地へ移動し、そこで再度船積みを行なって同年5月6日に出港、松島基地には5月28日に帰還した。 このアメリカへの展開は3ヶ月に及んだため、この1997年の展示飛行回数は15回にとどまった。なお、この年には松島基地に新しい隊舎が完成した。
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