分子人類学から
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/20 05:49 UTC 版)
「インド・ヨーロッパ祖族」の記事における「分子人類学から」の解説
近年の分子人類学、考古遺伝学(民族移動のパタンを追跡するために遺伝子分析を行う方法)の発展によって、印欧祖族の起源の解明に向け、新たな展開が開けてきた。 R1b および R1a 分子人類学的研究によって、ハプログループR1a (Y染色体)およびハプログループR1b (Y染色体)(現在は共にヨーロッパはで高頻度、R1aはインドでも高頻度)は、ロシアのステップから印欧語族ともに拡散したことがわかってきた。加えて、ハプログループR1a, R1b(すなわち印欧語族)と伴に、ヨーロッパへもたらされた常染色体遺伝子が存在することがわかった(この遺伝子は、現代のヨーロッパ人に存在するが、新石器時代のヨーロッパ人には存在しない。) 。アイルランドとポルトガルの古代の人類遺骸分析の研究から、R1bは東ヨーロッパのステップからもたらされた常染色体遺伝子とともにこの地にもたらされたことが示された。 ハプログループR1aの下位系統P1a1a(R-M17またはR-M198)は、印欧語話者と相関性が高い。また、ハプログループR1bの下位系統R1b1aは印欧語族のケントゥム語と相関している。現在までに集められたデータから、高頻度の2つの広く分離された領域があることが示されている。1つはポーランドとロシアのコア地域の周辺の東ヨーロッパ、もう1つはインドガンジス平野周辺の南アジアである。歴史的および先史時代においてこのような状態になりうる理由については、集団遺伝学者および分子人類学者の間で進行中の議論および注目の対象であり、言語学者および考古学者にとっても潜在的な関心事である。 ユーラシア全土からの126以上の集団からの16,244人を対象にしたUnderhillらによる2014年の大規模な研究において、R1a-M420がイランの近くで発生した説得力のある証拠があると結論付けられた。ハプログループR1aを特徴付ける明確な突然変異(M17)は約10,000年から14,000年前に発生した。 Ornella Semino et al.は最終氷期最盛期の間に、ハプログループR1a1が黒海の北から氷河期後(完新世)に広がったと提唱している。その後、クルガン文化の拡大に伴いヨーロッパと当方へ拡散した。 ヤムナ文化 ジョーンズら(2015)およびHaakら(2015)によると、ヤムナ文化人は専らR1bであり、各染色体分析からは、ヤムナ人集団が2つの異なる狩猟採集民集団の混合体であったことが示された。1.マルタ・ビュレット文化などに親和性を持つ独特の「東ヨーロッパの狩猟採集民」か、その集団に密接に関連したシベリア由来の古代北ユーラシア人に近縁、2.おそらく近東のどこか、おそらくコーカサスまたはイランから到達した西部の狩猟採集民の2集団である。これら2つの集団のそれぞれがヤムナ人のDNAの約半分を占める。 縄目文土器文化 Haak etal(2015)は、ヨーロッパとロシアの3,000~8,000年前の94の人骨からのDNAを研究した。彼らは、約4,500年前に黒海の北のポントス・カスピ海平原を起源とするヤムナ文化の集団がヨーロッパに大規模に流入し、銅器時代のヨーロッパ人のDNAがヤムナ人のDNAと一致するようになった、と結論付けた。 アンドロノヴォ文化 縄目文土器文化から、印欧語話者は再び東へ移動し、アンドロノヴォ文化を形成した。殆どの研究者はアンドロノヴォ文化をインド・イラン語派の初期段階に関連させている。その北縁、ウラル語族のエリアと重なっている。 Allentoftら(2015)によると、シンタシュタ文化とアンドロノヴォ文化は縄目文土器文化から派生した。キーザーら(2009)によると、クラスノヤルスク地方からアンドロノヴォの地域の10人の男性の遺骨のうち、9人はハプログループR1a (Y染色体)に属し、1人はハプログループC-M130(xC2)(Y染色体)に属していた。さらに、青銅器時代のmtDNAハプログループの90%は西ユーラシア起源であり、この研究では、全体(検出可能な研究サンプルが残っている青銅器時代と鉄器時代の26人)のうちの少なくとも60%が金髪と碧眼であった。 2004年の研究では、青銅器時代/鉄器時代の期間中、カザフスタンの人口の大部分(青銅器時代のアンドロノヴォ文化の一部)は西ユーラシア起源(U、H、HV、T、I、WなどのmtDNAハプログループ)であったことも立証された。また、紀元前13〜7世紀以前のカザフスタンのサンプルはすべてヨーロッパの血統に属していた。 ケントゥム語とサテム語 インド・ヨーロッパ語族に属する諸言語話者を特徴づける遺伝子はハプログループR1b (Y染色体)およびハプログループR1a (Y染色体) であるが、R1bはヨーロッパ西部やアナトリア、ウイグル(旧トカラ語分布域)などケントゥム語話者に高頻度で、R1aはバルト・スラブ語派やインド・イラン語派などサテム語話者に高頻度である。印欧祖語が話されたヤムナ文化の人骨からはハプログループR1b (Y染色体)が91.5%の高頻度で検出されているが、R1aは検出されていない。そのため、元来の印欧語族話者はケントゥム語を話すR1b集団であり、ある時点でR1a集団が新たに印欧語に言語交替を起したものと考えられ、その際にR1a集団の基層言語の特徴がサテム語の特徴として受け継がれたものと思われる。
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