内積空間上のノルム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/17 04:15 UTC 版)
「計量ベクトル空間」の記事における「内積空間上のノルム」の解説
p ≠ 2 とするとき、ベクトル空間に ‖ x ‖ p = ( ∑ i = 1 ∞ | ξ i | p ) 1 / p ( x = { ξ i } ∈ ℓ p ) {\displaystyle \|x\|_{p}=\left(\sum _{i=1}^{\infty }|\xi _{i}|^{p}\right)^{1/p}\quad (x=\{\xi _{i}\}\in \ell ^{p})} なるノルムをいれてノルム空間を得ることはできるが、中線定理(平行四辺形公式)を満たさないので内積空間にはならない(ノルムに付随する内積が存在するには中線定理が成り立たなければならない)。 しかし内積空間ならば、内積から自然に定義され、中線定理を満足するノルム ‖ x ‖ = ⟨ x , x ⟩ {\displaystyle \|x\|={\sqrt {\langle x,x\rangle }}} を持つ。このノルムは内積の定義における正定値性公理によってきちんと定義される。ノルムはベクトル x の長さ(あるいは大きさ)と考えることができる。公理から直接に以下のようなことが分かる: コーシー=シュワルツの不等式 V の任意の元 x, y に対して | ⟨ x , y ⟩ | ≤ ‖ x ‖ ⋅ ‖ y ‖ {\displaystyle |\langle x,y\rangle |\leq \|x\|\cdot \|y\|} が成立する(等号は x と y とが線型従属であるとき、かつそのときに限り成立)。 これは数学においてもっとも重要な不等式のうちの一つである。ロシア語の文献ではコーシー=ブニャコフスキー=シュワルツの不等式とも呼ぶ。重要性に鑑みて、簡潔な証明を記しておこう:y = 0 のときは自明ゆえ、⟨y, y⟩ は非零とする。このとき λ = ⟨ y , y ⟩ − 1 ⟨ x , y ⟩ {\displaystyle \lambda =\langle y,y\rangle ^{-1}\langle x,y\rangle } と置けば 0 ≤ ⟨ x − λ y , x − λ y ⟩ = ⟨ x , x ⟩ − ⟨ y , y ⟩ − 1 | ⟨ x , y ⟩ | 2 {\displaystyle 0\leq \langle x-\lambda y,x-\lambda y\rangle =\langle x,x\rangle -\langle y,y\rangle ^{-1}|\langle x,y\rangle |^{2}} となり、整理すれば証明を得る。 直交性 内積は角度や長さといった言葉で幾何学的に解釈することができるので、内積空間において幾何学的な用語法を用いる動機付けを与えるものとなる。実際、コーシー=シュワルツの不等式の直接の帰結として、F = R の場合には、二つの非零ベクトル x, y の間の角を等式 angle ( x , y ) = arccos ⟨ x , y ⟩ ‖ x ‖ ⋅ ‖ y ‖ {\displaystyle \operatorname {angle} (x,y)=\arccos {\frac {\langle x,y\rangle }{\|x\|\cdot \|y\|}}} で定義することが正当化できる。ここでは角度の値を [0, π] から選ぶものとする。これは二次元ユークリッド空間における場合の対応物になっている。F = C の場合の角度(閉区間 [0, π/2] は angle ( x , y ) = arccos | ⟨ x , y ⟩ | ‖ x ‖ ⋅ ‖ y ‖ {\displaystyle \operatorname {angle} (x,y)=\arccos {\frac {|\langle x,y\rangle |}{\|x\|\cdot \|y\|}}} と定義するのが典型的である。このような角度の定義に呼応して、V の二つの非零ベクトル x, y が直交することの必要十分条件をそれらの内積の値が 0 となることと定める。 斉次性 V の任意の元 x とスカラー r に対して ǁrxǁ = |r| ǁxǁ が成り立つ。 三角不等式 V の任意の二元 x, y に対して ǁx + yǁ ≤ ǁxǁ + ǁyǁ が成り立つ。 斉次性と三角不等式は函数 ǁǁ が実際にノルムを成すことを示すものである。これにより V はノルム線型空間となり、従ってまた距離空間を成す。最も重要な内積空間は、この距離に関して完備距離空間となるもので、それらはヒルベルト空間と呼ばれる。任意の内積空間 V は、適当なヒルベルト空間の稠密な部分空間であり、このヒルベルト空間は V の完備化として、本質的に V によって一意に決定される。 ピタゴラスの定理 V の二元 x, y が ⟨x, y⟩ = 0 を満たすならば ǁxǁ2 + ǁyǁ2 = ǁx + yǁ2 が成り立つ。 この等式の証明には、ノルムを定義に従って内積を用いて書いて、各成分に関する加法性に従って展開すれば十分である。「ピタゴラスの定理」という名称はこの結果を幾何学的に解釈したものが綜合幾何学(英語版)における同名の定理の類似対応物になっていることによる。無論、綜合幾何学におけるピタゴラスの定理の証明は、基礎に置かれた構造が乏しいために、より複雑なものとなることに注意すべきである。その意味において、綜合幾何学におけるピタゴラスの定理は、いま述べた内積空間におけるものよりも深い結果である。 ピタゴラスの定理に数学的帰納法を適用することにより、x1, …, xn がベクトルの直交系、即ち相異なる任意の添字 j, k に対して ⟨xj, xk⟩ =0 を満たすならば ∑ i = 1 n ‖ x i ‖ 2 = ‖ ∑ i = 1 n x i ‖ 2 {\displaystyle \sum _{i=1}^{n}\|x_{i}\|^{2}=\left\|\sum _{i=1}^{n}x_{i}\right\|^{2}} となることが示せる。コーシー=シュワルツの不等式から、⟨,⟩: V × V → F が連続写像となることも分かるから、ピタゴラスの定理を無限和にまで拡張することができる: パーシヴァルの等式 V が完備内積空間ならば、{xk} がどのに元も互いに直交する V のベクトル族であるとき、 ∑ i = 1 ∞ ‖ x i ‖ 2 = ‖ ∑ i = 1 ∞ x i ‖ 2 {\displaystyle \sum _{i=1}^{\infty }\|x_{i}\|^{2}=\left\|\sum _{i=1}^{\infty }x_{i}\right\|^{2}} が、左辺の無限級数が収斂する限りにおいて成立する。 空間の完備性は、部分和の列(これがコーシー列となることは容易)が収斂することを保証するために必要である。 中線定理 V の任意の二元 x, y に対し、ǁx + yǁ2 + ǁx − yǁ2 = 2ǁxǁ2 + 2ǁyǁ2 が成り立つ。 実は中線定理はノルム空間において、そのノルムを導く内積が存在するための必要かつ十分な条件であり、これを満足するとき対応する内積は偏極恒等式 ‖ x + y ‖ 2 = ‖ x ‖ 2 + ‖ y ‖ 2 + 2 ℜ ⟨ x , y ⟩ {\displaystyle \|x+y\|^{2}=\|x\|^{2}+\|y\|^{2}+2\Re \langle x,y\rangle } によって与えられる(これは余弦定理の一つの形である)。
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