公証人役場事務長殺害説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 00:50 UTC 版)
死刑確定後の2011年に井上は公証人役場事務長逮捕監禁致死事件の被害者(事務長)の長男に関係者を介して手紙を出した。その内容は、これまで事務長の死因を麻酔薬の副作用と述べていたが、それは事実ではなく、中川智正(当時医師)が故意に殺害した可能性がある、というものだった。1995年3月1日午前11時頃に中川が井田を呼ぶために電話に向かい目を離した間に死亡したとされているが、事務長が死亡した当日は大雪であり、井田が上九に到着した時刻から考えるとそれは不可能で、中川に虚偽があるという主張である。しかし、この時点での捜査機関の対応はなかった。 その後2012年1月に平田信が、6月には高橋克也が逮捕され、両名は公証人役場事務長事件に関与していたため、同事件の捜査が再開された。井上の新主張(後述するように井上は「新主張」ではないとも主張しているが、その裏付けは示されていないので「新主張」と表記する)を裏付ける証拠や共犯者の供述はなく、井上が事件発生から16年以上経って自分の過去の証言や供述を覆したこともあり、検察庁の認定は麻酔薬の副作用による死亡ということで変わらなかった。 平田の一審裁判員裁判では、平田が逮捕監禁罪(「致死」はついていない)で起訴されていたこともあり、事務長の死因は争点にならなかった。判決は事務長の死因を麻酔薬の副作用と認定し、井上の証言について「死因について突然新たな供述をするなど、証言は誇張や記憶の混同があるのではないかとの疑問が残る」と指摘している。井上の新主張は採用されないまま、2016年1月13日に最高裁は平田の上告を棄却、確定した。 高橋克也の一審裁判員裁判では高橋が逮捕監禁致死罪で起訴されていた上、弁護側が事務長の死因について争ったため、これについて詳しい審理が行われた。「中川が故意に事務長を殺害した可能性がある」との井上の証言に対し、中川は否定したほか、共犯者で元医師の林郁夫は、井上の証言に対して「あり得ない」と証言し、他の共犯者も井上の証言を否定した。2015年4月30日の高橋に対する一審判決は、「井上の証言はその内容が突飛である上に、これに沿う関係者の証言もない」「井上の証言はそのまま信用できないというほかにない」、他方、中川の証言は他の共犯者の「証言などにより支えられている」として事務長の死因を麻酔薬の過量投与による事故と認定し、井上の新主張を採用しなかった。2016年9月7日の高橋に対する控訴審判決も一審判決を支持し、井上の新証言を採用しなかった。 井上が新主張を行った理由については、事務長の長男が「これまでの説明とあまりにも違い、すべてを信じることはできない。再審のための証言ではないかと受け止めた」と語っているとおり、中川が井上と無関係に被害者を殺害したのであれば被害者に対する井上の責任は軽くなるため、再審請求が目的だったのではないかと指摘する報道も存在する。 なお、井上は、中川が事務長を殺害した可能性があるとの話は、自身の一審の段階から弁護人に話しているが弁護人から他に話すことを止められた、とも証言している。
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