伝統的な化粧しっくい
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/25 23:23 UTC 版)
「化粧しっくい」の記事における「伝統的な化粧しっくい」の解説
化粧しっくいは丈夫で美しく風雨にも強い建築材料であり、壁の表面仕上げに適している。伝統的に内装にも外装にも仕上げとして使われ、石や煉瓦の壁に1層または2層で薄く塗られていた。表面の仕上げ塗りには一般に色を加え、織物のような外観にする。 西洋で木骨造が登場すると、ラスと呼ばれる金網を梁や柱の間の壁面に張って、そこに化粧しっくいを何度か塗り重ねるという新たな用途が生まれた。ラスは柔らかい状態の化粧しっくいを保持すると同時に、硬化した脆い化粧しっくいの引っ張り強度を高める。何度も塗り重ねて厚くすることで、ひびが入ることを防ぐ。 化粧しっくいとラスを使った伝統工法では、下塗り (scratch coat)、中塗り (brown coat)、上塗り (finish coat) の3度塗りを行う。下塗りと中塗りはこてを使って手で行う場合と機械で吹き付ける場合がある。上塗りは、平滑仕上げ、テクスチャー仕上げ、砂壁状仕上げ、吹付け仕上げなどがある。 ラスは元々は壁に間隔を空けて木の板を貼り付けたもので、柔らかい化粧しっくいが硬化するまで保持するものだった。この技法が広く使われるようになった。 外壁の場合、アスファルトやタールを含浸させたフェルトまたは紙を張ってからラスを張り付け、さらに化粧しっくいを塗る。アスファルト含浸紙などは風雨に強く、化粧しっくいが多孔性で水が中に浸透しやすいため、さらに中まで染み込むのを防ぐ働きをする。 第二次世界大戦後、木製ラスの代替として亜鉛めっきして腐食しにくくした金網のラスが主に外装で使われるようになった。21世紀の現在でも金網のラスと化粧しっくいの3度塗りという工法は広く使われている。 化粧しっくいは彫刻などの芸術用素材としても使われてきた。バロック建築やロココ建築では、化粧しっくいを装飾に多用している。例えば教会や宮殿で、壁から天井に滑らかに装飾を施したり(繰形)、天井面に装飾を施したりするのに使われている。化粧しっくいはバロック建築における "bel composto" という技法の重要な一部となっていた。これは、ギリシア美術の建築・彫刻・絵画という3種類を融合させるという概念である。 化粧しっくいは装飾だけでなく、壁画と建築意匠の滑らかな連結を実現するのにも使われた。例えばバロックのトロンプ・ルイユ的天井と周囲を繋いだりする。教会では、キリストや聖母マリアや最後の審判を中央に描き、それを周囲の建築物と視覚的に繋げることで荘厳さを醸し出している。化粧しっくいは現実の建築意匠と壁画内の建築意匠を繋げる役目を果たす。 イスラム美術でも、モスクや宮殿の装飾に化粧しっくいを用いている。インド建築でも化粧しっくいを装飾に用いていた。 仕上がりが上品になるため、バロック風の化粧しっくいの装飾は19世紀から20世紀にかけて上流階級の住居によく使われていた。1920年代以降、徐々に住居に過度の装飾を加えることが少なくなり、化粧しっくいの装飾としての使用も減っていった。1950年代ごろにも、化粧しっくいは壁と天井をつなぐ繰形でつかわれ続けていた。
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