人事制度の問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/08 08:53 UTC 版)
日本においては、司書となる資格は図書館法に規定する公共図書館の専門職員となるための資格であるが、公共図書館の大部分を占める公立図書館では、司書の資格を取得した者を自治体の正職員として採用する人事制度がかならずしも確立していない。 司書を自治体の一般職員のなかで、たまたま司書資格を有する者を短期間の人事異動で司書業務に就かせるといった雇用の仕方をする自治体も多く、そもそも司書を嘱託職員、または非常勤職員としてしか採用しない事例すらある。さらには一部の自治体では司書を派遣会社からの派遣社員でまかなっている。 また大都市圏の大学図書館でも、司書を派遣会社からの派遣社員でまかなったり、図書館業務の一部を(あるいは全面的に)業者へ委託したりして図書館を運営する傾向がある。大学図書館業務の一部を(あるいは全面的に)受託している企業のスタッフ大半の入れ替わりが異様に激しい点等が大学側で問題になっているケースもあるといわれる。 このように、司書が司書として採用され、退職まで原則として司書としてのみ勤務する制度(司書職制)が確立していないために、多くの司書は勤務する図書館の利用者・潜在利用者のニーズに合わせたきめ細かいサービスを志しても、図書館以外との間での短いサイクルの異動などが原因となり、充分それをなしえないことが問題として指摘される[要出典]。 いっぽう、図書館職員としての採用枠が確立している国立大学図書館を運営する職員であっても、その選考要件ではかならずしも司書となる資格を有する必要はないものとされている。これは直接には日本における司書資格は法的にはあくまで公共図書館司書となるための資格であるからである。 また司書が司書の上級職として昇進する人事制度が確立していないために、図書館の管理職が司書からは登用されにくいという問題もある。自治体や大学の図書館では館長など運営責任者に司書経験者が就任することはそれほど多くなく、司書の意思がじゅうぶんに図書館運営に反映されないことも珍しくない。 こうした司書の人事制度の問題は、博物館における学芸員の地位の低さや、公文書館におけるアーキビスト職の法制化の未整備といった日本における図書館とよく似た機能を持つ蓄積型文化施設の現状とも共通した問題とみなすことができ、これらの施設が日本においてその起源の地である欧米のそれらと比べて多様な機能と高い社会的位置づけを獲得できていないことをものがたっている。 一般に、日本に近代図書館制度を伝えた欧米においては、司書の有資格者は相当高度な専門職であるとみなされている。たとえば、アメリカ合衆国・カナダでは、アメリカ図書館協会 (American Library Association,ALA) によって認定されている専門職大学院の課程を修了しなければ、司書となる資格を得ることはできない。これらの国では、図書館の運営にはかならず司書を任用しており、大学図書館勤務の司書の場合は、教員に準ずる教育研究専門職としての立場が確立されている。こうした司書の地位の高さは裏返すと、図書館という施設が社会的に高い地位を与えられ、その多様な機能が市民から認知され、また社会の基礎インフラとして高度に活用されていることを意味している。つまりそのような重要な施設の運営にかかわる専門職はそれなりに高い専門性が期待されていることを意味している。
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