予測方法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/08/22 20:19 UTC 版)
分配係数は、実際に測定しなくても定量的構造活性相関アルゴリズムを用いた計算によって求めることができる。ドラッグデザインとの関わりもあってケモインフォマティクスにおける重要な研究領域のひとつとなっている。 フラグメント法では、ある分子の分配係数を、その分子の部分構造ごとの分配係数の総和によって計算する。ベンゼンや安息香酸に置換基Rを導入した誘導体について水-オクタノール分配係数log PR を計測し、これを無置換体の分配係数log PH と比較すると、ハメットの電子的性質の置換基定数σと同様に加成性が成立する。そこで、HanschとLeoの疎水性置換基定数はπ = log PR - log PH で定義される。例えば、メチル基0.50、エチル基1.02、プロピル基1.45、イソプロピル基1.22などである。さらにこれらを比較するとメチレン1個の疎水性を算出することができる。このようにフラグメント法は、置換基定数法をさらに細かいフラグメントに分割する試みである。フラグメントの連結によっては構造の込み合いのため、単純な加成性が成立しないが、これは今日では溶媒接触表面(ASA)の違いを反映しているものと推定できる。構造の込み合いを補正するf項、さらに環構造についての補正項などを用いて計算する体系がLeoのフラグメント推算法である。つまり、手計算で以下のデータマイニング(すなわち、非線形性をパターン認識で処理を分岐する手法)をしていることに他ならない。 データマイニング法では、サポートベクターマシン・ニューラルネットワーク・決定木などを用いて、化学構造が近く分配係数が既知の化合物で学習させることで、目的化合物の分配係数を求める。 概要で示したように、分配係数の熱力学的根拠は分子と溶媒との相互作用の違いに起因する。そこで、それぞれの溶媒との相互作用に伴う化学ポテンシャルの差を求めることで理論的に分配係数を求めることが期待される。まず、半経験的分子軌道法計算プログラムMOPACの1990年頃のバージョンにおいて溶媒の連続体近似により、誘電率を与えることで分子構造の立体エネルギーの計算から化学ポテンシャルを算出、ここから水の誘電率で計算したものを引けばΔμに相当する数値が得られるとされたCOSMO法近似がよい成績を出した。理論的な推算手法に対しては、この時期から現実的有用性が認知されるようになった。またその頃パソコンでもまともなパフォーマンスが得られるようになったため、非経験的分子軌道法 (ab initio MO) 計算や密度汎関数 (DFT) 計算の利用が大幅に拡大したが、これに伴って精度の高い分配係数計算が可能となりつつある。詳細は、MOPAC、Gaussian、GAMESSや市販のプログラムについて検討されたい。フラグメント法やその他に提案されているデータマイニング手法との違いは、理論計算では立体構造(コンフォメーション)の多様性について統計力学的に処理する必要性があることだろう。
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