中期プラトニズムとは? わかりやすく解説

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中期プラトン主義

(中期プラトニズム から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/11 18:36 UTC 版)

プルタルコス。『プラトン哲学に関する諸問題』(『モラリア英語版』13巻所収)などを著した。

中期プラトン主義(ちゅうきプラトンしゅぎ)または中期プラトニズム (ちゅうきプラトニズム、: Middle Platonism, : Mittelplatonismus) は、前1世紀から後3世紀ローマ哲学において、プラトン哲学を解釈した学派・思潮を指す。それまでプラトン主義の本流だったアカデメイア派と異なり、懐疑主義よりも独断主義の立場をとった[1]。同時代の新ピタゴラス主義と一部重なり、ともに後3世紀以降の新プラトン主義に引き継がれた。

主な人物に、アスカロンのアンティオコス[2]プルタルコス[3][2]アプレイウス[2]アレクサンドリアのフィロン[2]トラシュロス[2]エウドロス英語版[2]スミュルナのテオン[2]ガイウス英語版アルビノス[2]アルキノオス[2]アッティコス英語版[3]タウロス英語版[3]テュロスのマクシモス英語版[4]がいる。

概観

「中期プラトン主義」という名称は、20世紀初頭ドイツの学者プレヒター英語版 により導入された[5]。以来、新プラトン主義の前座にすぎないとして軽視されていたが、20世紀末のディロン英語版により初めて主題的に研究された[6]

「初期プラトン主義」 (: Early Platonism) すなわち前4世紀後半から前3世紀前半までのアカデメイア(旧アカデメイア)は、懐疑主義的な「アカデメイア派」に取って代わられた[2]前86年第一次ミトリダテス戦争アテナイスッラに占領されると、アカデメイア派は衰退した[5]。同じ頃、キケロの師アスカロンのアンティオコスが、ストア派との折衷主義のもと、懐疑主義を拒絶してプラトンを再解釈し、中期プラトン主義の草分けとなった[2]

現存する中期プラトン主義の文献として、アルビノス『プラトン対話篇入門』、アルキノオス『プラトン哲学講義』、アプレイウス『プラトンとその学説』、ディオゲネス・ラエルティオスギリシア哲学者列伝』第3巻のプラトン伝、スミュルナのテオン『プラトンを読むための数学的事項に関する解説』、プルタルコスモラリア英語版』の諸篇、アレクサンドリアのフィロンの著作、著者不明の『テアイテトス注解』出土パピルス、ほか複数の断片がある[2]

中期プラトン主義は、地理的中心をもたず、地中海世界各地で個別に展開されたが[5]、とくに「アレクサンドリア学派」で知られる文献学文法学の中心地、アレクサンドリアで盛んになった[2]。アレクサンドリアのフィロンエウドロス英語版トラシュロスは、新ピタゴラス派的立場からプラトンを解釈した[2]。アレクサンドリア以外でも、モデラトスヌメニオスが同様の解釈をした[7]。なお、トラシュロスは4部作9編の『プラトン全集』を編纂したことでも知られる[2]

中期プラトン主義はグノーシス主義にも影響を与えたことが、ナグ・ハマディ文書から窺える[8]

アプレイウステュロスのマクシモス英語版は「第二次ソフィスト思潮」にも属する。

後3世紀半ばに活動したプロティノスらを境に、中期プラトン主義が終わり新プラトン主義が始まった[2]

特徴

中期プラトン主義の特徴として、ヘレニズム哲学アリストテレスとの折衷主義[9]、「プラトンの不文の教説英語版」を背景とした新ピタゴラス主義的「数」の重視[10]善のイデアと神との同一視[9]イデアと神の思考内容(ノエーマ νόημα)との同一視[9]論理学自然学倫理学の哲学三部分類[9]、神をまねる倫理的生き方の実践[9]、などが挙げられる。

新プラトン主義との違いとして、『パルメニデス』を形而上学的著作として注釈しなかったこと[11]、善のイデアをあくまで善なる神として、「存在の彼方」とはしなかったこと[12]、などが挙げられる。

関連項目

脚注

  1. ^ クリストファー・ロウ著、金山弥平訳 著「プラトン」、デイヴィッド・セドレー英語版 編 『古代ギリシア・ローマの哲学 ケンブリッジ・コンパニオン』京都大学学術出版会、2009年。ISBN 9784876987863  176f頁
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 中畑 2007, p. 471-476.
  3. ^ a b c 西村 2020, p. 165f.
  4. ^ 松原國師 『西洋古典学事典』京都大学学術出版会、2010年。 ISBN 9784876989256 1211f頁。
  5. ^ a b c 西村 2020, p. 185f.
  6. ^ 瀬口 2019, p. 189.
  7. ^ ファーガソン 2011, p. 254-261.
  8. ^ 荒井献大貫隆・小林稔・筒井賢治 編訳『新約聖書外典 ナグ・ハマディ文書抄』岩波書店〈岩波文庫〉、2022年、 ISBN 978-4003382516 465-469頁(荒井献 解説)
  9. ^ a b c d e 中畑 2007, p. 478ff.
  10. ^ 西村 2020, p. 168.
  11. ^ 西村 2020, p. 160.
  12. ^ 西村 2020, p. 172.

参考文献

  • ファーガソン, キティ 著、柴田裕之 訳 『ピュタゴラスの音楽』白水社、2011年。 ISBN 9784560081631 
  • 瀬口昌久 著「実践的な生と伝記の執筆 『英雄伝』の指導者像と哲人統治の思想」、小池登;佐藤昇;木原志乃 編 『『英雄伝』の挑戦 新たなプルタルコス像に迫る』京都大学学術出版会、2019年。 ISBN 9784814001989 
  • 西村洋平 著「プラトン主義の伝統」、伊藤邦武山内志朗中島隆博納富信留 編 『世界哲学史 2』〈ちくま新書〉筑摩書房、2020年。 ISBN 9784480072924 
  • 中畑正志 著「プラトン哲学・アリストテレス哲学の復興」、内山勝利 編 『哲学の歴史 第2巻 帝国と賢者 古代2』中央公論新社、2007年。 ISBN 9784124035193 
  • 中畑正志 「総解説 プラトンを読む」、下記『プラトン哲学入門』所収、2008年。ISBN 9784876981809

原典文献

アルビノス『プラトン対話篇入門』、アルキノオス『プラトン哲学講義』、アプレイウス『プラトンとその学説』、ディオゲネス・ラエルティオスプラトン伝』、オリュンピオドロス『プラトン伝』、著者不明『プラトン哲学序説』
『プラトン哲学に関する諸問題』、『『ティマイオス』における魂の生成について』ほか
ディオゲネス・ラエルティオス『プラトン』、オリュムピオドロス『プラトン伝』、プルタルコス『プラトン哲学の諸問題』、アノニュモス『プラトン哲学緒論』

外部リンク


中期プラトニズム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/11/03 15:21 UTC 版)

プラトニズム」の記事における「中期プラトニズム」の解説

詳細は「中期プラトニズム」を参照 ローマ帝国ポントス王国戦った第一次ミトリダテス戦争の際にアカデメイア破壊されアカデメイア派時代終わりを告げた。それと前後して紀元前90年ごろにはアスカロンのアンティオコス懐疑主義拒絶し、中期プラトニズムとして知られる時代への道を作り出した。中期プラトニズムにおいてプラトニズム幾分逍遥学派の、そして多大にストア派教義融合させられた。中期プラトニズムでは、イデア理性的な精神に対して超越的なではなく精神内在的なものであって、また物理的世界生きていて、魂の中に内在するのであるという、宇宙霊魂提唱された。プルタルコス著名になる以前中期プラトニストの一人である。中期プラトニズムの折衷的な性質アパメアヌメニオスによるピュタゴラス主義との融合アレクサンドリアのフィロンによるユダヤ哲学との融合窺える

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