両者の融合の試み
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 07:03 UTC 版)
近年、新しい古典派とニュー・ケインジアンの間で共通の土壌が見出されつつある。両者はマクロ経済学にはミクロ的な基礎が必要であること、経済主体の期待が大きな役割を果たすことの2点で共通の認識を持っている。こうした共通認識のもと、両者は動学的確率的一般均衡(英語版)モデルという共通のモデルを用いる。このような動向は、短期の景気循環や長期の経済成長などマクロ経済現象を統一的に分析するフレームワークを構築する方向へ向かうものと評価されている。こうしたマクロ経済学のミクロ的基礎付けにより、ミクロ経済学とマクロ経済学を厳格に区別することが難しくなってきている。 ニュー・ケインジアンは新しい古典派が用いてきた最適成長モデルやリアルビジネスサイクル理論を出発点に、それらにいくつかの仮定を追加することでケインズ経済学にミクロ的な基礎を与えようと試みつつある。 新しい古典派でも従来のワルラス的な完全競争市場の仮定を緩める動きが見られる。彼らの中にはモデルを構築する際に外部性や不完全情報、さらには規模の経済や独占的競争を取り入れる者もいる。その典型が内生的成長理論である。 ただ、こうしたミクロ的基礎を強調する新しいマクロ経済学に対しては、セイの法則を受容する古典派とこれと対立するケインジアンという古典的な二分法をケインズから受け継いだポスト・ケインジアンと呼ばれる学派の人々からは、鋭い批判が寄せられている。しかし、数の上でも主流派である新しい古典派とニュー・ケインジアンがミクロ的な前提条件の受容において接近している状況の下では、古典派とケインジアンという二分法は、少なくとも近年のマクロ経済学の動向を捉える上では、以前ほどの意味は持たないと評価されている。 普及年代学派特徴学者18C古典派 セイ法則により供給が需要を生み出す価格伸縮的市場 デヴィッド・リカード、アダム・スミス、ジョン・スチュアート・ミル 19C新古典派 価格調整により達成されるワルラス均衡で完全雇用が常時成立 レオン・ワルラス、ヴィルフレド・パレート 1930sケインズとカレツキ 有効需要原理により需要が供給を生み出す価格硬直的市場 ジョン・メイナード・ケインズ、ミハウ・カレツキ 1930-1940sケインジアニズム(ネオケインジアニズム) ケインズ理論の比較静学的定式化の試み ジョン・ヒックス、ポール・サミュエルソン 1970sサプライサイダー セイ法則によりケインズ的需要創出財政政策を批判 ロバート・マンデル 1970sマネタリスト 古典派の二分法によりケインズ的金融政策は長期的無効 ミルトン・フリードマン 1970s合理的期待学派 完全予見されたケインズ的金融政策は短期かつ長期的無効 ロバート・ルーカス 1970sポストケインジアニズム(名称は1975年より) ケインズ理論の本質は動学的不均衡その要因としての「長期期待」の非合理性に着目した動学的定式化の試み(合理的期待学派と対立) 広義にはミハウ・カレツキ、ジョーン・ロビンソン、ピエロ・スラッファ、ハイマン・ミンスキー、ポール・デヴィッドソン、ニコラス・カルドア、宇沢弘文など 1990s新しい古典派(ニュー・クラシシズム) 価格硬直性は存在せずワルラス均衡が常時成立 エドワード・プレスコット 1990sニュー・ケインジアニズム 価格硬直性へのミクロ的基礎付け グレゴリー・マンキュー、ジョセフ・スティグリッツ、清滝信宏
※この「両者の融合の試み」の解説は、「マクロ経済学」の解説の一部です。
「両者の融合の試み」を含む「マクロ経済学」の記事については、「マクロ経済学」の概要を参照ください。
- 両者の融合の試みのページへのリンク