マフムード弑逆事件とブギス人
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「ジョホール王国」の記事における「マフムード弑逆事件とブギス人」の解説
1699年、ジョホール王国のスルタンで不安定な気質の持ち主といわれたマフムード・シャー2世(マレー語版)が、相続人不在のままブンダハラ(宰相)によって殺害され、マラッカ王家の王統が絶えた。マフムードとは従兄弟の関係にもあったブンダハラは、アブドゥル・ジャリル4世(マレー語版)と称してクーデターを起こし、みずからスルタンを宣言した。この事件に対し、それまで王家に忠誠を誓っていた海上民たちは動揺し、ジョホールから離反し始めた。新スルタンのアブドゥル・ジャリルは、この海上民の動揺を収めるため、王都を自勢力の拠点であるリアウ諸島に移した。これにより、アブドゥル・ジャリルは海上民たちを帰順させることにようやく成功した。 しかし、1717年、マフムードの遺児であることを主張したラジャ・クチルがスマトラ島のシアク(現インドネシア・リアウ州)に現れた。ラジャ・クチルはこのとき、新スルタンに対し、みずからミナンカバウのバガルユン王家の支持を得ていることを強調している。ラジャ・クチルはアブドゥル・ジャリルを攻撃し、彼をスルタン位から降ろし、1718年にジョホールの王を名乗った。アブドゥル・ジャリルは、ラジャ・クチルのもとを逃れ、マレー半島東岸のトルンガヌに移動し、現在のパハン州やクランタン州の地元首長らの支持を得て宮廷を構えたが、ラジャ・クチルの放った刺客により、1721年、パハンで殺害された。 これに対し、南スラウェシ出身のブギス人は、旧ブンダハラ家を支えた。アブドゥル・ジャリルの子息ラジャ・スライマン(スライマン・バドラル・アラム・シャー(マレー語版))はブギス人に対し同盟と参戦を要請し、ブギスの人びとはそれに応えたのである。ラジャ・クチルはブギス人の猛攻のため、リアウ諸島からシアクに後退せざるを得なくなった。傭兵として高い戦闘能力をもち、航海技術にすぐれたブギス人に対し、ラジャ・クチル側を支援したミナンカバウの人びとは内陸河川での戦闘を得意としており、海戦は得意ではなかった。なお、リアウ撤退後にラジャ・クチルによって建国されたシアク王国(英語版)は、ミナンカバウの胡椒やガンビール、コーヒー、米、金、籐や蜜蝋など、主として山林に依拠する物品を輸出する港市として19世紀中葉まで栄えた。 こうしてブギス人はラジャ・クチルをリアウから追放し、ラジャ・スライマンをジョホール王国の新しいスルタンとしてむかえた。ラジャ・スライマンは、1722年から1760年までスルタンとして君臨し、本拠をリアウ諸島の主島ビンタン島に置いた。それゆえ、これ以後のジョホール王国はしばしば「ジョホール・リアウ王国」の名で呼ばれる。王都は、ビンナン島のタンジュン・ピナンに置かれた。このころから、ジョホール王国はしだいにスマトラ各地に対する支配権を失うようになっていった。それにともない、マレー半島の各地の領主は錫の採掘と輸出を基盤としてしだいに勢力を有するようになった。 17世紀の末頃から海産物の干物が中国向けの商品が重要になり、中国人商人がリアウ・リンガ諸島やブルネイ王国(現ブルネイ)、スールー諸島(現フィリピン)のホロ島を中心とするスールー王国などに赴き、大々的に集荷するようになったため、東南アジアの群島部では海洋資源の開発が始まった。しかし、海上民の漁労のみでは中国人商人の需要を満たすことができなかったため、各地の権力者、商人、海上民自身も含め必要な労働力を調達するための奴隷狩りをおこなうようになり、これは金品の略奪もともなったため、海賊活動がさかんになった。 マレー半島の南端沖に所在し、マラッカ海峡の南の入口にあたるリアウ諸島を抑えたジョホール・リアウ王国では、海上民のみならずブギス人が、海運や商業の従事者として、また軍事力として重要な役割をになった。ブギス人の首領ダエン・マレワ(マレー語版)は、スライマンを援助した見返りに副王(ヤン・ディプルトゥアン・ムダ)の地位を獲得し、代々ダエン・マレワの5兄弟の子孫が世襲することとなった。さらに、ブギス人は王国内においてマレー人と同等の地位が保障され、リアウ港での停泊税や交易関税は免除された。リアウは、海産物のほか、スマトラ島やマレー半島の胡椒や錫、さらにビンタン島ではガンビール(ガンビールノキ)の栽培をおこなって、これらを輸出した。また、王国を実質的に支えていたブギス人は前代からマレー文化の影響を強く受けて熱心なムスリムとなっており、リアウは東南アジアにおけるイスラームのセンターの1つとして繁栄した。
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