ブレトン・ウッズ2仮説
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「グローバル・インバランス」の記事における「ブレトン・ウッズ2仮説」の解説
ブレトン・ウッズ体制とは第二次世界大戦後から1971年まで続いた国際協調体制であり、ブレトンウッズ体制において、アメリカが世界の中心国として金1オンス=35ドルとして安定させ、その他の国は周辺国として自国通貨をドルに固定していた(固定相場制)。このアメリカ中心のブレトン・ウッズ体制の下、世界は安定した自由貿易を享受した。 当初、日本やヨーロッパは国際的な資本移動や貿易を規制し、輸出を促進する政策を取り、戦争の傷跡からの復興ととも徐々に資本移動の自由化を進めた。日本がほぼ完全な資本移動の自由化を推進したのは1980年代である。しかし、ブレトン・ウッズ体制はアメリカが1971年に金とドルの兌換を停止したことで崩壊した。その後はスミソニアン協定などを経て、世界は1973年に変動相場制に移行した。 これがブレトン・ウッズ体制の概要であるが、Dooley et al(2003)によって、世界的な経常収支不均衡、すなわちグローバル・インバランスはブレトン・ウッズ体制の再来なのだという解釈が発表された。これはブレトン・ウッズ2仮説と呼ばれる。つまり、ブレトン・ウッズ体制のようにアメリカを中心国、中国などのアジア諸国などを周辺国とすると、アジア諸国の採用している実質ドル・ペッグ制と経常収支の不均衡が戦後のブレトン・ウッズ体制の安定期に似ているとしている。 Dooley et al(2003)によれば、これらの国は3つの種類に分けられる。1つ目に中心国としてのアメリカ、2つ目に中国などの輸出志向の傾向にある貿易収支国、3つ目にヨーロッパのユーロ圏などの(域内全体として見れば)輸出志向にない資本収支国である。貿易収支国はアメリカに積極的に輸出する国々であり、これらの国々によってアメリカの経常収支は大幅な赤字となっているが、貿易収支国の対米投資(政府によるアメリカ国債の購入が中心)や資本収支国の民間部門のアメリカへの資本流入により、アメリカの巨大な経常収支赤字はファイナンスされている。 果たしてこのアメリカの経常収支赤字が持続可能かどうかということが問題になるが、貿易収支国の対米投資はしばらくの間それほど減少しないだろうと予測できる。その理由は次のとおりである。まず、イギリスやユーロ圏はドルに対して変動相場制を取っており、ドルに対してかなり柔軟に変動しているが、これに対して、中国の経済的な成功を目の当たりにしたアジア諸国は自国通貨の為替レートを対ドルに安定化させる政策を取る傾向にある。特に、ASEANなどの東南アジアでは1997-1998年のアジア通貨危機前から実質ドル・ペッグ政策が取られる傾向にある。ただし、自国通貨をドルに対して安定化させるためには通貨当局が外国為替市場に介入し、主としてドル買い自国通貨売りをする必要がある。例えば、中国は人民元を適正な為替レートよりも安くドルに固定していると考えられており、対ドル固定のために中国の通貨当局が大量にドル買い人民元売りをしている。この結果、中国は膨大な量のドルを外貨準備資産として蓄積している。この積み上がったドルは主にアメリカ国債の購入に充てられている。このアメリカ国債の購入はアメリカ国債の価格上昇、利回り低下という結果を生み出す。よって、アメリカは自国の経常収支赤字をアジアの対米投資(アメリカ国債購入が中心)によってファイナンスすることが可能となるのである。 このようなアジアの貿易収支国によるアメリカの経常収支赤字のファイナンスが続く限り、アメリカの経常収支赤字は持続可能であるとDooleyは主張している。もちろんアジアの貿易収支国が十分に成熟すれば、将来的には完全な変動相場制に移行することになるが、Dooley et al(2003)はこれはしばらくの間起こらないであろうとしている。すなわち、この世界経済の不均衡状態、グローバル・インバランスは当面持続可能であると考えられ、この体制はブレトンウッズ2体制と呼ばれている。
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