デュロキセチンとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 固有名詞の種類 > 製品 > 医薬品 > > 抗うつ薬 > デュロキセチンの意味・解説 

デュロキセチン

分子式C18H19NOS
その他の名称ズロキセチン、Zuloxetine、Duloxetine、デュロキセチン、[S,(+)]-N-Methyl-γ-(1-naphtyloxy)-2-thiophenepropane-1-amine、LY-248686、2-[(S)-1-(1-Naphtyloxy)-3-(methylamino)propyl]thiophene、[(S)-1-(2-Thienyl)-3-(methylamino)propyl]1-naphtyl ether(S)-N-Methyl-3-(2-thienyl)-3-(1-naphtyloxy)-1-propanamine、(S)-ズロキセチン、(S)-Duloxetine(S)-N-Methyl-3-(1-naphtyloxy)-3-(2-thienyl)propylamine、サインバルタ
体系名:[S,(+)]-N-メチル-γ-(1-ナフチルオキシ)-2-チオフェンプロパン-1-アミン、2-[(S)-1-(1-ナフチルオキシ)-3-(メチルアミノ)プロピル]チオフェン、[(S)-1-(2-チエニル)-3-(メチルアミノ)プロピル]1-ナフチルエーテル、(S)-N-メチル-3-(2-チエニル)-3-(1-ナフチルオキシ)-1-プロパンアミン(S)-N-メチル-3-(1-ナフチルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピルアミン


デュロキセチン

【仮名】でゅろきせちん
原文duloxetine

うつ病の治療糖尿病合併する末梢神経障害手足における痛み、しびれ、刺痛、灼熱痛筋力低下)の治療用いられる薬物一部抗がん剤による末梢神経障害治療薬としても研究されている。デュロキセチンには、抑うつ痛み緩和する作用のある化学物質脳内での存在量増加させる働きがある。セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬一種である。「duloxetine hydrochloride(塩酸デュロキセチン)」、「cymbalta」とも呼ばれる

デュロキセチン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/29 22:56 UTC 版)

デュロキセチン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
ライセンス EMA:リンクUS FDA:リンク
胎児危険度分類
  • US: C
法的規制
薬物動態データ
生物学的利用能 〜 50% (32% to 80%)
血漿タンパク結合 〜 95%
代謝 肝代謝
CYP1A2
CYP2D6
半減期 13.46時間
(40mg, β相, 1日目)
排泄 尿中: 72%, 糞中: 18.5%
データベースID
CAS番号
116539-59-4 (free base)
136434-34-9 (HCl)
ATCコード N06AX21 (WHO)
PubChem CID: 60835
DrugBank APRD00060
ChemSpider 54822
KEGG D07880
化学的データ
化学式
C18H19NOS
分子量 297.41456 g/mol
テンプレートを表示

デュロキセチン(Duloxetine)は、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)と呼ばれる抗うつ薬の一つである。日本では2010年からサインバルタの商品名で知られる。薬機法における劇薬である。

日本での適応は、うつ病・うつ状態に加え、糖尿病性神経障害・線維筋痛症・慢性腰痛症に伴う疼痛・変形性関節症に伴う疼痛である。機能性ディスペプシアの症状に効果があるとする医師も多い[1][2]

開発

フルオキセチン(プロザック)の開発にも携わった、イーライリリーによって1980年代後半に合成され、1988年に開発がスタートした。

しかし、1996年に第III相試験に入らないことを決定したイーライリリー社は開発から退き、日本での塩野義製薬の単独開発が始まり、その成果を見たイーライリリー社は1999年に再開発を始め、2001年にFDAに申請、2004年4月に承認された。2012年現在、日本をはじめ95カ国で承認されている。

日本では2010年4月にデュロキセチン塩酸塩(Duloxetine HCl)として、イーライリリーおよび塩野義製薬からサインバルタ商品名で薬価収載されている。

効能・効果

デュロキセチン20mg(東和薬品後発薬

日本

日本において、デュロキセチン(商品名:サインバルタ)は以下の順に効能・効果の適応が承認され、保険適用(薬価収載)されている。

  • 2010年1月20日:「うつ病・うつ状態」として製造販売承認を取得した[3]
  • 2012年2月22日:「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」が適応に追加された[4]
  • 2015年5月26日:「線維筋痛症に伴う疼痛」が適応に追加された[5]
  • 2016年3月18日:「慢性腰痛症に伴う疼痛」が適応に追加された[6]
  • 2016年12月19日:「変形性関節症に伴う疼痛」が適応に追加された[6]

アメリカ ・ヨーロッパ

アメリカ合衆国では、糖尿病性ニューロパチー線維筋痛症全般性不安障害に適応があり、ヨーロッパでは、腹圧性尿失禁、糖尿病性ニューロパチー、全般性不安障害に適応がある。

薬理

結合特性[7][8]
レセプター/トランスポーター Ki (nM)
セロトニン 0.7~0.8
ノルエピネフリン 7.5
ドーパミン 240
5-HT2A 504
5-HT2C 916
5-HT6 419

デュロキセチンは既存のSNRI(ミルナシプランベンラファキシン)と同様にセロトニン(5-HT)およびノルアドレナリン(NA)の再取り込みを阻害し、シナプス間隙、細胞外の5-HTとNAの濃度を上昇させる。SNRIでも既存のSNRIと比べ、5-HTおよびNA再取り込み阻害作用が強く、ドーパミン(DA)再取り込み阻害作用はほとんどない。特徴としても、各神経物質受容体に対しての親和性が低く、抗コリン作用やα1拮抗作用による心毒性が少ないとされる。これらと5-HT, NA再取り込み作用の機序から、副作用を抑えた三環系抗うつ薬と見ることができる。

また、前頭前皮質におけるDAの濃度が上昇する。これは、前頭前皮質にDAトランスポーターの分布が少なく、そのためNAトランスポーターを介して前シナプス終末部に取り込まれる。しかし、デュロキセチンはNAトランスポーターを阻害するため、DAの再取り込みも阻害し、細胞外の遊離DAの濃度が高まるとされる。

抗うつ薬中断症候群も他のSSRIやSNRIに比べて軽いという[9]

併存疾患に対しての効果

うつ病患者には、大うつ病エピソード以外にも付随する症状を伴っている場合が多い。特に、慢性疼痛や血管運動症状などがあり、それに付随する形でうつ病患者では非ステロイド性抗炎症薬の使用量が多くなる傾向にある。

線維筋痛症などの慢性疼痛や血管運動症状のように5-HTとNA再取り込み阻害作用が適度なバランスである必要がある疾患に対し、

NA/5-HT レート
試料: ヒト トランスポーター
  5-HT NA DA NA/5-HT ratio
デュロキセチン 0.8±0.01 7.5±0.3 240±23 9.4
ベンラファキシン 82±3 2483±43 7647±793 30.3
ミルナシプラン 123±11 200±2 >10000 1.6

上記の表のように、デュロキセチンは5-HT再取り込み阻害とNA再取り込み阻害が約10対1と理想的なバランスであり、米国や欧州では慢性疼痛を含めて様々な症状に応用がされている。

使用上の注意

本剤の意識消失発作の発症頻度は0.27%と低い。日本における発売後8ヵ月間で多剤投与中の追加投与で2例の意識消失発作を起こしたという報告がある[10]。1例目は手足を動かしていたことから痙攣発作である可能性が高く、2例目も発作時の脈拍、血圧が正常であったために痙攣発作である可能性が高い[10]。また、2例ともにデュロキセチンの投与の中止によって、発作は起こらなくなった。

一般的に抗うつ薬は発作の閾値を下げうるので[11]、抗うつ薬の多剤投与を行っている患者には特に注意を要す。

尿貯留の副作用のため、アメリカ食品医薬品局 (FDA) は、尿疾患には禁止している[12]

禁忌

慎重投与

主なもののみ記述する[13]

  • 前立腺肥大症等排尿困難のある患者
  • 高血圧または心疾患のある患者
  • 緑内障または眼内圧亢進のある患者

これらはノルアドレナリンの再取り込み阻害作用により、相対的に交感神経が優位になる偽抗コリン作用により引き起こされるが、デュロキセチンはムスカリン性アセチルコリン受容体に対する親和性はほとんどなく、直接的な抗コリン作用より軽度である。

薬物動態

デュロキセチンは主にCYP1A2CYP2D6で代謝され、各酸化的代謝にはCYP1A2が中程度に親和性を示し、特に5-hydroxy体と4-hydroxy体の酸化的代謝にはCYP2D6が強く親和性を示す。主要代謝物の活性価は低く、臨床では問題にならず、抗うつ作用を発現させるのはデュロキセチンの未変化体であることが示唆される。

デュロキセチンは中程度にCYP2D6を阻害するが、CYP2D6を誘導する薬物は知られていない。また、CYP1A2の阻害能は最小限であり、誘導をすることもないとされる。

このことから、シトクロムP450に関与しないミルナシプランには劣るが[14]、デュロキセチンの薬物相互作用は比較的少ないとされる。しかし、デュロキセチンは軽いCYP2D6阻害薬であり、強力なCYP2D6阻害薬のパロキセチンや高用量(100mg〜)でCYP2D6を阻害するセルトラリン、強力なCYP1A2阻害薬のフルボキサミンとの併用で最大血中濃度とAUCの上昇が見られたため、それらの阻害薬との併用には注意すべきである。

併用禁忌

モノアミンの代謝が阻害されることにより、脳内のモノアミン濃度が高まった上でのモノアミン再取り込み阻害により、昏睡や全身痙攣などの症状が現れるおそれがある。

併用注意

主なもののみ記述する。

  • ブチロフェノン系抗精神病薬のピモジド(オーラップ)

併用により、ピモジドの酸化的代謝が阻害されて血中薬物濃度とAUCが上昇した結果、心電図でQT延長をきたす可能性がある。

副作用

重大な副作用

出典

  1. ^ 東原良恵, 今一義, 長田太郎, 渡辺純夫, 北條麻理子, 永原章仁, 廣田喬司, 里村恵美, 赤澤陽一, 野村収, 上山浩也, 稲見義宏「消化器症状を主訴に発症した仮面うつ病の1例」『消化器心身医学』第21巻第1号、消化器心身医学研究会、2014年、20-22頁、doi:10.11415/jpdd.21.20ISSN 1340-8844NAID 13000468698120222-02-08閲覧 エラー: 閲覧日が正しく記入されていません。 
  2. ^ 機能性ディスペプシア外来 - 機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)とは - 原眞一”. 2021年12月8日閲覧。
  3. ^ うつ病・うつ状態に対するSNRI「サインバルタ®カプセル20mg・30mg」製造販売承認取得のお知らせ”. 塩野義製薬株式会社. 塩野義製薬株式会社 (2010年1月20日). 2025年5月16日閲覧。
  4. ^ 「サインバルタ®カプセル20mg・30mg」の糖尿病性神経障害に伴う疼痛に対する適応追加のお知らせ”. 塩野義製薬株式会社. 塩野義製薬株式会社 (2012年2月22日). 2025年5月16日閲覧。
  5. ^ 「サインバルタ®カプセル20mg・30mg」の線維筋痛症に伴う疼痛に対する適応追加のお知らせ”. 塩野義製薬株式会社. 塩野義製薬株式会社 (2015年5月26日). 2025年5月16日閲覧。
  6. ^ a b サインバルタカプセル20mg・30mg 審査報告書”. PMDA. 医薬品医療機器総合機構 (2016年12月9日). 2025年5月16日閲覧。
  7. ^ “Comparative affinity of duloxetine and venlafaxine for serotonin and norepinephrine transporters in vitro and in vivo, human serotonin receptor subtypes, and other neuronal receptors”. Neuropsychopharmacology 25 (6): 871–80. (December 2001). doi:10.1016/S0893-133X(01)00298-6. PMID 11750180. 
  8. ^ Li, Jie Jack (2015). Top Drugs: Their History, Pharmacology, and Syntheses. Oxford University Press. ISBN 978-0-19-936258-5. https://books.google.com/books?id=qOHXCQAAQBAJ&q=duloxetine+0.7+ki&pg=PA127 
  9. ^ Stephen M. Stahl、仙波純一、松浦雅人、中山和彦、宮田久嗣(訳)、2010、『精神薬理学エセンシャルズ -神経科学的基礎と応用-』3、   ISBN 978-4895926409 pp. p. 570
  10. ^ a b 「多剤併用中の難治性うつ病患者にduloxetineを追加投与して意識消失発作がみられた2症例」『臨床精神薬理』第14巻第1号、2011年1月、pp. 103-106、 ISSN 1343-3474 (要購読契約)
  11. ^ Pisani F, Oteri G, Costa C, Di Raimondo G, Di Perri R (2002). “Effects of psychotropic drugs on seizure threshold.”. Drug Saf. 25 (2): pp. 91-110. PMID 11888352. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11888352. 
  12. ^ デイヴィッド・ヒーリー 著、田島治監訳、中里京子 訳『ファルマゲドン』みすず書房、2015年、88頁。 ISBN 978-4-622-07907-1  Pharmageddon, 2012.
  13. ^ デュロキセチンカプセル20mg「DSEP」/デュロキセチンカプセル30mg「DSEP」 添付文書
  14. ^ 川崎博己, 山本隆一, 占部正信, 貫周子, 田崎博俊, 高崎浩一朗「新規抗うつ薬Milnacipran hydrochloride(TN-912)の脳波および循環器に対する作用」『日本薬理学雑誌』第98巻第5号、日本薬理学会、1991年、345-355頁、doi:10.1254/fpj.98.5_345ISSN 0015-5691NAID 130000758808 

参考文献

  • 『臨床精神薬理』第13巻第3号、星和書店、2010年3月、 ISSN 1343-3474 

関連項目

外部リンク




デュロキセチンと同じ種類の言葉


固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「デュロキセチン」の関連用語

デュロキセチンのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



デュロキセチンのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
独立行政法人科学技術振興機構独立行政法人科学技術振興機構
All Rights Reserved, Copyright © Japan Science and Technology Agency
がん情報サイトがん情報サイト
Copyright ©2004-2025 Translational Research Informatics Center. All Rights Reserved.
財団法人先端医療振興財団 臨床研究情報センター
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのデュロキセチン (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS