ツールと技法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/07 03:57 UTC 版)
原子間力顕微鏡 (AFM) と走査型トンネル顕微鏡 (STM) はナノテクノロジー初期の2つの走査型プローブである。他の走査型プローブ顕微鏡として、マービン・ミンスキーが1961年に考案した走査型共焦点顕微鏡から発展したものやカルヴィン・クェートらが1970年代に開発した走査型超音波顕微鏡 (SAM) があり、ナノスケールの構造を観察できるようになっている。走査探針(プローブ)の先端はまた原子や分子を人の意図するように動かしナノ構造を操作することもでき、これを "positional assembly" と呼ぶ。しかし、それらは非常に手間と技量を要する技法である。現時点において、最も確立されたナノメートル規模での加工技術はナノリソグラフィであり、フォトリソグラフィ、X線リソグラフィ、ディップペン・ナノリソグラフィ、電子線リソグラフィ、ナノインプリント・リソグラフィなどの技法がある。リソグラフィはトップダウンの加工技術であり、大きな素材にナノスケールのパターンを描く。 ナノテクノロジーの別の技法のグループとして、ナノワイヤ製造など半導体製造で使われている、遠紫外線リソグラフィ、電子線リソグラフィ、集束イオンビーム加工、ナノインプリント・リソグラフィ、原子層堆積法、分子気相成長法、ジブロック共重合体を使った分子セルフアセンブリ法などがある。しかし、これらはナノテクノロジーの研究成果としてナノテクノロジーから生み出されたものではなく、それ以前からの科学技術の発展の中で自然に生まれたものがほとんどである。 トップダウン方式の研究では、目的が明確である場合が多く、研究対象もシリコンなど半導体が多い。トップダウン方式は期待された通りに徐々に小さいデバイスを生み出してきた。走査型プローブ顕微鏡はナノ素材の評価と合成の両方で重要なツールとなっている。原子間力顕微鏡と走査型トンネル顕微鏡は素材の表面を観察し、そこで原子を移動させるのに使うことができる。それらの顕微鏡のプローブ先端を特別なものに設計変更すると、試料表面に対して構造を彫り付けたり、セルフアセンブリの補助とすることができる。走査型プローブ顕微鏡を使って原子を試料表面上で移動させることもできる。今のところこういった技法は時間もコストもかかるため大量生産には向いていないが、実験室レベルの試作には適している。 対照的にボトムアップ方式は原子や分子を組み合わせて徐々に大きな構造に組み上げようとするものである。技法としては、化学合成、自己組織化、"positional assembly" などがある。自己組織化単分子膜の評価に適したツールとして二重偏光干渉測定法がある。ボトムアップ方式のもう1つの技法として分子線エピタキシー法 (MBE) がある。ベル研究所の研究者 John R. Arthur、Alfred Y. Cho、Art C. Gossard が1960年代末から1970年代にかけて研究用ツールとしてMBE装置を開発・実装した。MBEは1998年のノーベル物理学賞の対象となった分数量子ホール効果の発見に役立った。MBEを使えば、原子サイズの精度で原子の層を形成でき、複雑な構造を組み立てることができる。MBEは半導体研究はもちろんのこと、新たな分野であるスピントロニクスにおいても広く使われている。また物理吸着現象は、ナノメートルサイズの物質を可逆に制御する方法として再び注目されている。
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